top of page
感染症 - メニューへ戻る

RSウイルス

 パラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科ニューモウイルス属のウイルス。一本鎖のRNAゲノムを持つ。多形性に富む球状で、エンベロープに包まれている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 RSウイルスは主に冬季に流行するかぜ症候群の原因ウイルスで、1歳までに7割、2歳までにほぼ全ての乳幼児がRSウイルスの感染を経験すると言われています。自然宿主はヒト、チンパンジー、ウシ、また、ヤギやヒツジから分離されることもあります。潜伏期間は3~5日間で、鼻汁が先行し、発熱、咳などが出現します。RSウイルスは生涯に何度も感染を繰り返し、繰り返すほど症状は軽くなっていくのがふつうで、2、3歳以降に重症化することはあまりありません。乳児、特に6か月未満では重症化する割合が幼児より高く、細気管支炎に進展し喘鳴をきたす、肺炎になるなどして入院加療が必要になることもあります。喘鳴や呼吸困難は鼻汁や咳の症状出現からふつう数日遅れて出現します。RSウイルスには特効薬がなく、検査が加療方針の決定に寄与しないことから、1歳以降のお子さんは入院症例を除いてRSウイルスの検査を行うことを国は認めていません(保険適応外)。

 類似の症状を示す気管支喘息とは違い、RSウイルスによる気道狭窄(RSウイルス細気管支炎)は粘液や脱落細胞による閉塞が主な原因ですので、気管支喘息では有効な気管支拡張薬は効果がとぼしく、また、ステロイド吸入、および全身投与も有効ではないとされており、アメリカ小児科学会の細気管支炎のガイドラインでも使用を推奨していません。しかし、他に有効と思われる治療法がないこともあり、本邦では入院が必要と判断された場合には、気管支喘息と同様に気管支拡張薬、ステロイド治療が行われることがあります。

 RSウイルスが気管支喘息の発症に関係していると言われたことがありましたが、乳児期の下気道感染はいずれも等しく気管支喘息発症のリスクであることが分かり、RSウイルスに特別ではないと考えられるようになりました。

 RSウイルスに特効薬はありません。しかし、重症化するリスクの高い児においてシナジスという薬剤の使用が認められています。これは、RSウイルスの持つF蛋白に対するモノクローナル抗体で、RSウイルスで入院が必要になる確率を半分に下げられると言われています。下記のリスクを有する児において、流行期間中に月に1回の筋注を行います。ワクチンではないため、ワクチンとの接種間隔の兼ね合いはありません。

 シナジスの適応は、RSウイルス流行初期に、
 ・在胎週数28週以下の早産児で、12か月齢以下の新生児、および乳児。
 ・在胎週数29週から35週の早産児で、6か月齢以下の新生児、および乳児。
 ・24か月齢以下で過去6か月以内に気管支肺異形成症の治療を受けたことのある新生児、乳児、および幼児。
 ・24か月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患を有する新生児、乳児、および幼児。
 ・24か月齢以下の免疫不全を伴う新生児、乳児、および幼児。
 ・24か月齢以下のダウン症の新生児、乳児、および幼児。

 RSウイルスは潜伏期間にも感染力を持ち、症状が改善した後も感染力が持続、特に低年齢では数週間ウイルスの排泄が続くため、流行を防ぐことは実質的に不可能だと考えられています。

 RSウイルスは平らな表面では7時間、衣類などの凹凸の大きい表面では1時間生存できると言われています。

 まとめ:RSウイルスは冬に流行るウイルスで、ふつうの風邪の原因だが、特に乳児や1歳代では喘鳴や呼吸困難をきたすことがある。

ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus):

 ヒトメタニューモウイルスは2001年に発見されたウイルスでパラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科メタニューモウイルス属に分類された。ヒトのウイルスの中で遺伝子がもっとも似ているのはRSウイルスで、臨床症状もそれとよく似ています。乳児期から感染が始まり、10歳までには全員が一度は感染すると言われています。本邦での流行期は春、潜伏期間は4から6日間、主な症状は、発熱、咳、鼻汁は多くは1週間程度で改善します。5から20%程度、他のウイルスとの重複感染があると言われています。
 RSウイルスと同じくF蛋白を持っていますが、RSウイルスと抗原交差性はありません。6歳までの肺炎のある者に迅速検査キットを使用できますが、特異的な治療法がないことから当院では採用していません。

ヒトボカウイルス(human bocavirus): 

 2005年に発見された歴史の浅いこのウイルスは、パルボウイルス科パルボウイルス亜科ボカウイルス属に分類されました。ヒトボカウイルスは世界中に普遍的に存在しており、5歳までに大半の人が一度は感染すると考えられています。かなりの率で他のウイルスとの重複感染が見られます。ヒトボカウイルスには1型から4型まであり、1型は気道感染を、2型から4型までは胃腸炎の小児の便から分離されることがあります。ヒトボカウイルス1型の平均発熱期間は3日、咳、鼻汁が見られ、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスと同じように喘息性気管支炎や肺炎を生じることがあります。

 まとめ:ヒトメタニューモウイルスとボカウイルスは、RSウイルスと同じように低年齢に感染するかぜ症候群の原因で、喘鳴や肺炎を起こすことがある。

bottom of page