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B型肝炎ウイウス

 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染によって起こる肝炎。一過性の感染(急性肝炎)と持続性の感染(慢性キャリア)の2通りの感染を起こす。持続性感染(キャリア化)は通常、母児感染によって引き起こされる。急性肝炎では1%以下で劇症肝炎を起こす以外は治癒する。キャリアは当初HBe抗原陽性でウイルス量は多いものの、肝障害のない無症候性キャリア状態で推移するが、多くは思春期から30歳代に一時的にせよ肝炎を起こす。これを契機に90%のキャリアはHBe抗原からHBe抗体が陽性の場合へとセロコンバージョンを起こし、再び無症候性キャリアへと戻るが、残りの約10%ではHBe抗原が陽性のまま肝炎が持続する。慢性肝炎例では肝硬変、肝癌へと発展することが多い。急性肝炎は補助療法のみで経過をみる。慢性肝炎では抗ウイルス療法が使用されるが、HBVを完全に駆逐することはできない。HBIG(抗HBsヒト免疫グロブリン)、HBワクチンにより感染予防が可能となっている。
(医学書院 医学大辞典 一部改変、省略)

 B型肝炎ウイルスは、ヘパドナウイルス科オルソヘパドナウイルス属に属するウイルスです。へパは肝臓、ドナはDNA、つまり、肝臓に感染するDNAウイルスという意味の名称です。持続感染者は世界で4億人、本邦での感染率はおよそ100人にひとりだと言われています。感染経路は母親から出産時に子に伝搬する垂直感染が本邦では主だと考えられており、母子感染防止事業が徹底され一定の効果を上げてきましたが、現在では感染者との接触によって(主に体液から)感染する場合が問題になっています。
 出産時に母親から、もしくは乳幼児期に何らかの誘因で感染すると、免疫力が充分ではないため大部分は持続性に感染し、肝臓の炎症がほとんどない状態(無症候性キャリア)が数年から20年以上続きます。やがて免疫力の成熟に伴って肝炎が出現するようになります。年長児以降、免疫力が成熟した状態で初めて感染すると、多くは無症状ですが、1から3ヶ月の潜伏期間ののち、20から30%が発熱、倦怠感といった風邪に似た症状ののち、黄疸、肝障害といった肝炎の症状が出現します。しかし、年長児以降で感染するとウイルスは排泄され、持続感染する可能性はそれほど高くはありません。しかし、ひとたび持続感染し、慢性肝炎が進行して肝硬変にいたった場合には、年間5から8%で肝癌が発生すると言われています。B型肝炎ウイルスの場合、子どもでも肝癌が発生する可能性があります。
 B型肝炎ウイルスの感染で問題となるのは、前述のように持続感染する場合です。いくつかの重要な検査項目があります。
・HBV-DNA:血清に存在するウイルス量を測定します。高いほど発癌率が上がると言われています。しかし、HBV-DNAで検出できないほどの低ウイルス量の患者が多数存在することが知られています。
・HBs抗原:B型肝炎ウイルスの外殻(エンベロープ)を構成する蛋白質を検出する検査です。高値の場合は現在感染していることを意味し、ほとんどは持続感染です。
・HBs抗体:HBs抗原に対する抗体で、B型肝炎ウイルスの感染を防御する働きを持っています。ワクチン接種者でも陽性になります。
・HBe抗原:B型肝炎ウイルスのコア粒子の一部を構成する蛋白質ですが、そのうち血液中に流出した可溶性のものを測定しています。HBe抗原が高値の場合は、ウイルスの活動性が高く、感染を広げやすい状態です。HBe抗原陽性の母親から予防対策なしで出生した場合、80から90%で子がキャリアになると言われています。また、HBe抗原陽性者は無症候性キャリアの場合は肝炎を発症するリスクが高く、肝炎にいたっている場合は肝炎の活動性が高いことを意味します。
・HBe抗体:HBe抗原に対する抗体です。HBe抗体が陽性になると、ふつうB型肝炎ウイルスの増殖がおだやかになり、感染力が低下し、肝炎の活動性も低くなります。
・HBc抗原:B型肝炎ウイルスのコア粒子を構成する蛋白質です。
・HBc抗体:HBc抗原に対する抗体で、この抗体が陽性の場合は、HBs抗体が陰性でも、微量のB型肝炎ウイルスが肝臓内に存在することが分かってきています。ワクチンによってHBs抗体を獲得した場合は、通常検出されません。
 HBe抗原が陰性化し、HBe抗原が陽性となった場合のことをセロコンバージョンといい、これが治療の第一目標になります。また、HBe抗原陰性だけが達成された状態をセロネガティブといいます。一部の症例ではHBe抗原を産生しない変異株の出現によって、HBe抗原が陰性化しても肝炎が持続することがあり、この活動性を知るためにはHBV-DNA量を用います。
 治療を行うかどうかを決定する上で重要な基準は、組織学的進行度(これを把握するには肝生検が必要になります)、ALT値、HBV-DNA量です。乳幼児期にB型肝炎ウイルスキャリアとなった人の多くは子どものうちに肝炎を発症し、成人する前に75%が自然とセロコンバージョンすると言われており、肝機能異常(AST、ALTの上昇)が確認されてから3年以内にセロコンバージョンが50%と高率に見られることから少なくとも3年は経過観察します。それ以降もB型肝炎が続く場合には肝硬変や、肝癌に進展するリスクが大きくなってくるため、積極的な治療を開始します。3年以内でも急性増悪が認められた時には治療を開始することがあります。
 本邦で子どものB型肝炎に対して保険適応があるのは天然型IFN-αのみで、成人より有効性がやや高く、40から50%だと言われています。週3回、6ヶ月間の投与を行います。投与開始直後は発熱や頭痛が見られることがありますが、あらかじめ解熱薬を使用することで軽減できます。

 B型肝炎ウイルスにはAからJまでの9種類の遺伝型が存在し、さらにサブジェノタイプに分類されます。それぞれ慢性化率や病像、治療への反応性に少しずつ違いがあり、本邦では遺伝子型Cが多くをしめていましたが、近年、海外から持ち込まれた遺伝子型Aの症例が増えてきています。遺伝子型Aは、免疫力が成熟している状態で感染しても、本邦に土着していたタイプより慢性化率が高いと言われています。

 B型肝炎はワクチンによって予防できる感染症で、ワクチンは2016年10月1日より定期接種化されました。

 まとめ:B型肝炎ウイルスは出生時、乳幼児期に感染すると持続感染しやすい。ワクチンによる予防が行われている。

D型肝炎ウイルス:

 B型肝炎ウイルス(HBV)感染者の肝細胞中に核抗原として検出されるウイルス(ウイロイドに類似した特異な病原因子)。D型肝炎ウイルス(HDV)の伝達には、HBVの混合感染またはHBVキャリアへの重感染が必要で、感染はHBVに密接に関係しているが、別のウイルスとして扱われる。HDVはRNAウイルスで、そのエンベロープ(外被)はHBs抗原と脂質からなり、RNAゲノムとデルタ抗原を含んでいる。わが国ではデルタ抗体陽性率は約1%と低く、臨床上問題となることは少ない。HBVの増殖が抑制されればHDVも増殖できないので、HDV感染の予防はHBVワクチンの投与により行われる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 B型肝炎ウイルスが感染していないと増殖できない、サテライトウイルスと呼ばれる種類のウイルスです。B型肝炎の重症化に関与していると言われています。

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