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ヘルペスウイルス

 二本鎖のDNAゲノムをもつコアがカプシド、外被、エンベロープに包まれているウイルス。宿主細胞に長期間潜伏でき、DNA合成およびカプシドの形成は核内で起こる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 人に感染するヘルペスウイルス科のウイルスには下記のようなものがあります。ヘルペスウイルス科のウイルスは人との共存がもっとも得意だとされるウイルスで、どのウイルスも感染すると生涯体内に潜伏します。

単純ヘルペスウイルス属
 単純ヘルペスウイルス1型(ヒトヘルペスウイルス1型)
 単純ヘルペスウイルス2型(ヒトヘルペスウイルス2型)
 単純ヘルペスウイルスは皮膚や粘膜から人に感染します。単にヘルペスと言えばこの種類を差すことが一般的です。潜伏期間は2から10日で、90%の人は感染したときには無症状です。しかし、単純ヘルペスウイルスは一度感染すると、1型は主に三叉神経節に、2型は主に仙骨神経に生涯にわたって潜伏し続け、免疫力の低下に伴って発疹などの症状を引き起こします。単純ヘルペスは口唇ヘルペスのように出やすい場所がありますが、皮膚粘膜のどこにでも症状を生じますので、体や腕などに単純ヘルペスによる発疹が出現することがあります。単純ヘルペスによる発疹は、湿疹との区別が難しい場合や、二次的に細菌感染を合併する(とびひのようになる)ことがあります。単純ヘルペスウイルスには特効薬が存在し、内服薬、軟膏がありますが、内服薬の方が効果が高いと考えられています。細菌感染の合併が懸念される場合には、併せて抗菌薬を処方させて頂くことがあります。
・口唇ヘルペス
 単純ヘルペスウイルスで最も一般的な症状です。口のまわり(鼻や目の周りや、他の部位にできることもあります)に小さな水泡が集まって出現し、かゆみや痛み、やけどのような感覚を伴います。これは初感染の時にも起こりえますが、多くは疲労などによって免疫力が低下し、ウイルスが再活性化したことによる症状です。1週間程度で改善します。
・ヘルペス性歯肉口内炎
 単純ヘルペスウイルス1型が原因になります。この病気はヘルペスウイルスに初めて感染した時にだけ起こるもので、乳幼児期に多く見られます。5日間程度の潜伏期間ののち、高熱、少し遅れて歯肉の発赤、そして多数の口内炎が出現します。初期には発熱とのどの赤みしか見られないため、咽頭炎(のどの風邪)と診断されることがほとんどです。1、2週間程度で改善しますが、年少児では口の中の痛みのために食事が取れなくなることがあり、入院が必要になることもあります。
・カポジ水痘様発疹症
 アトピー性皮膚炎や湿疹のある、主に皮膚バリアーの低下している乳幼児に生じます。初感染の時に見られることもあれば、再活性化に伴うこともあります。やや大きな、中心部に陥凹のある特徴的な発疹が主に顔や上半身に多数出現します。点滴による強力な治療でウイルス血症にいたるのを防ぐ必要があるため、カポジ水痘様発疹症を認めた場合には病院へご紹介させて頂くことがあります。
・ヘルペス性ひょうそ
 爪の周囲にヘルペスが感染して生じます。皮膚のただれ、痛みを伴い、口唇ヘルペスから指しゃぶり、唾液などで感染します。
・ヘルペス性結膜炎、角膜炎など
 ヘルペスによる目付近の病変は、結膜に及ぶことがあります。角膜炎に至った場合はものの見え方に影響する可能性があるため、ヘルペス性結膜炎が疑われる場合には、念のため眼科の受診を勧めさせて頂くことがあります。
・性器ヘルペス
 皮膚、粘膜に潰瘍、水泡を生じます。初めての感染でも症状が出なかったり、強い痛みのため排尿すら難しくなることもあります。性器ヘルペスがある場合、その時に症状がなくても出産時に赤ちゃんにうつってしまうことがあります。新生児ヘルペスは命にかかわる状態ですので、性器ヘルペスのあるお母さんが出産される場合は、産婦人科では赤ちゃんが産道を通らないように帝王切開を勧められることがあります。
・単純ヘルペス脳炎
 脳炎の中でももっとも重症の部類だと考えられています。人との共存によって生存している単純ヘルペスウイルスが脳炎を起こす理由ははっきりと分かっていません。医療の進歩により死亡率は以前より良くなっていますが、現在でも社会復帰できるのはふたりにひとり程度と考えられています。単純ヘルペス脳炎については脳炎・脳症の項で触れます。

水痘・帯状疱疹ウイルス属(ヒトヘルペスウイルス3型)
・水痘(水ぼうそう)
 おそよ2週間の潜伏期ののち、身体各部に紅斑、その中央に水疱の出現、そしてかさぶたへと変化する発疹を次々と生じる水痘(いわゆる水ぼうそう)を引き起こします。典型的には発疹が増えるに従って高熱となりますが数日で解熱し、1週間程度で発疹は全てかさぶたになって終息します。ふつうは全身状態は悪くなりません。水痘は空気感染(飛沫核感染)する代表的なウイルスで、学校感染症の第2種に指定されています。すべての発疹がかさぶたになるまで登校・通園が認められません。
・帯状疱疹
 水痘・帯状疱疹ウイルスは、水痘を生じたのち神経節に生涯潜伏し、免疫力の低下などにともなって帯状疱疹を引き起こします。帯状疱疹は神経にそって症状が出るため、背中からお腹までのいずれかの場所に肋骨にそって発赤、水疱が集まって出現し、痛みを伴います。1歳までに水ぼうそうにかかった場合は10歳までに帯状疱疹を生じることがあると言われています。また、水痘にかかっていないのに帯状疱疹になることがあります。その場合は、以前に水痘・帯状疱疹ウイルスに感染したことがあるが水痘の症状が出なかった(不顕性感染だった)、水痘ワクチンを接種したことがあればワクチン株による帯状疱疹かも知れません。さらに、妊娠週数20週以降で胎児が感染した場合には胎内で水痘になり、5歳までに帯状疱疹を発症することがあると言われています。発疹の出かたによっては伝染性膿痂疹(とびひ)との区別が難しいこともあり、抗菌薬を併せて処方させて頂くこともあります。
 帯状疱疹はうつることはないと言われますが、感染力がないわけではなく、家庭内の水ぼうそうにかかったことのない人には15%程度感染するという報告もあります。特にワクチン未接種、未罹患の小さなお子さんがおられるご家庭では注意が必要です。発疹が出始めたばかりの頃は、ふつうは園や学校も休むように話します。
 2014年10月1日から、水痘ワクチンの定期接種が開始となりました。

リンフォクリプトウイルス属 一般名エプスタイン-バールウイルス=EBウイルス(ヒトヘルペスウイルス4型)
 EBウイルスは乳幼児期に家族の唾液などからほとんどの人が感染し、軽い風邪のような症状かまったくの無症状で経過します。EBウイルスはそのまま免疫細胞などに潜伏し、生涯排除されることはありません。しかし、免疫系が成熟してくる年長児以降で初めて感染すると、伝染性単核球症を生じることがあります。潜伏期間は6週間程度と長めです。
・伝染性単核球症
 主な症状は発熱、のどの痛み、首のリンパ節の腫れなどですが、肝臓や脾臓が腫大することもあります。年齢が上がるほど症状が重く出る傾向があり、のどやリンパ節の腫れで食事が取れない、呼吸困難感が出る場合は入院が必要になることもあります。特異的な治療法はなく自然と治りますが、2週間程度発熱が続くこともあります。腫大のあるなしにかかわらず脾臓はしばらく損傷しやすい状態が続くため、解熱しても2週間程度は激しい運動や体を使った重労働は控えた方が良いと言われます。
 時に、伝染性単核球症様の症状を繰り返す、慢性活動性EBウイルス感染症という状態に移行することがあります。慢性活動性EBウイルス感染症は高度な治療を必要とする状態ですので、疑われる場合は病院の受診を勧めさせて頂きます。また、慢性活動性EBウイルス感染症は、3分の1の人で蚊アレルギーを合併すると言われています。これは、蚊に刺された部分で、EBウイルスに感染した免疫細胞が過剰に反応するためではないかと言われています。ここでいう蚊アレルギーとは、「蚊刺により局所反応が強く水疱形成や壊死,潰瘍形成などがみられるとともに,発熱や肝脾腫,リンパ節腫大などの全身反応を伴うもの」と定義されていて、蚊に刺されたあとが腫れやすい人全員を意味するわけではありません。

サイトメガロウイルス属(ヒトヘルペスウイルス5型)
 ほとんどの人が乳幼児期に感染し、ウイルスは生涯体内の色んな細胞に潜伏し続けます。初めて感染した時にはかるい風邪のような症状があるか、偶発的な採血で発見された肝炎から診断がつくことがあります。それらはふつう自然と改善します。年長児以降で初めて感染すると、伝染性単核球症に似た症状が出ることがあります。
 健常人に対するサイトメガロウイルス感染症はあまり問題とはなりませんが、妊娠中に母親が初めて感染した場合、胎児も感染することがあります。出生時に赤ちゃんがすでにサイトメガロウイルスに感染している頻度は、本邦では0.31%(約300人にひとり)だと見積もられています。これは、先天性感染症、たとえば先天性風疹症候群などTORCHと呼ばれる疾患群の中で、もっとも高い頻度になります。感染していても大部分は何も影響はありませんが、2割程度の赤ちゃんに、難聴や、発達の遅れなどが出ると言われています。
 サイトメガロウイルスは感染しても無症状のことが多く、過去かかったことがあるのか、今かかっているのか、正確に知ることが難しい感染症です。ですので、TORCHの中でもっとも頻度が高いにもかかわらずもっとも知名度が低い疾患となっています。神戸大学医学部産婦人科に先天性サイトメガロウイルス感染症に関するHPがあり、予防するための方法も紹介されていますので、どうぞご覧下さい。
 http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/index.html

ロゼオロウイルス属(ヒトヘルペスウイルス6型、ヒトヘルペスウイルス7型)
 いずれも突発性発疹症の原因となるウイルスで、2週間程度の潜伏期のあと、数日続く突然の発熱、そして解熱前後から小さな赤い発疹が体中に出現します。熱はしばしば39℃をこえ、時に6日以上続きます。発疹ははっきり出てくる人もいれば、かなり淡く出現する人もいて、おおむね1週間以内に消失します。中には感染してもまったく症状の出ない人もいるようですが、2、3歳までにほとんど全ての人が感染し、ウイルスは生涯体内に潜伏します。感染経路は主に家族の唾液だと考えられています。突発性発疹症の原因はこの2種類のウイルスとエンテロウイルスが含まれるため、突発性発疹症を複数回経験する子どももいます。
 2歳までに8割程度の人が発症するとてもありふれた感染症ですが、本邦ではヒトヘルペスウイルス6型は脳症の原因の第2位に数えられています。もし、疑わしい症状があった場合はすぐに高度な医療機関の受診が必要です。脳炎・脳症については他項で触れます。脳症の原因の第一位はインフルエンザです。

ラジノウイルス属 カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(ヒトヘルペスウイルス8型)
 健常な小児で問題となることはふつうありません。本邦での感染率は1%程度と考えられています。

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