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エンテロウイルス

 ピコルナウイルス科に分類されるウイルス属であり、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどをはじめ、多くのウイルスが知られている。便から経口で広がる。エンベロープを持たない。1本鎖RNAをゲノムとして持ち、比較的安定である。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 エンテロウイルスは下記のように6つのグループに大別されています。

 ポリオウイルス ポリオウイルス1から3型
 エンテロウイルスA コクサッキーウイルスA2、3、5、7、8、10、12、14、16型
                  エンテロウイルス71型
 エンテロウイルスB コクサッキーウイルスA9型
                  コクサッキーウイルスB1から6型
                  エコーウイルス1から7、9、11から21、24から27、29から33型
                  エンテロウイルス69型
 エンテロウイルスC コクサッキーウイルスA1、11、13、15、17-から22、24型
 エンテロウイルスD エンテロウイルス68、70型
 上記に分類されず  コクサッキーウイルスA4、6型

 これらの番号の飛んでいるものは、既に報告されていた他のウイルスと同一のものであったことが分かり削除されたものです。更に新たな血清型の提案もあるようですが、分類の困難さから、68型以降は単にエンテロウイルスと呼ばれるようになっています。ポリオについては他項に書きます。ポリオ以外のエンテロウイルスは不顕性感染するか、およそ数日の潜伏期間ののちに下記の症状を引き起こします。

・かぜ症候群
 エコーウイルス4、8、9、11、20、コクサッキーウイルスA21、24、B1および3から5型などが原因となります。数日の発熱、咳、鼻汁、咽頭痛、胃腸症状を生じることがあります。

・ヘルパンギーナ
 コクサッキーウイルスA2、4から6、8、10型などが原因となります。夏風邪として有名で、口蓋垂(のどちんこ)の両脇やその周囲に口内炎を生じます。2、3日発熱することがあります。痛みのため摂食できず脱水となり、点滴が必要になることもありますが、多くは鎮痛剤や刺激の少ない飲料などを摂取することで対応できます。口内炎はおおむね1週間以内に改善します。

・手足口病
 コクサッキーウイルスA6、16、エンテロウイルス71型などが原因となります。手足に赤い発疹(少しもりあがっていたり、水泡を伴う)と、口の中に口内炎を生じます。発疹はおしりの周囲や、おとなでは顔面に見られることもあり、口内炎はヘルパンギーナよりも広い範囲に出現します。手足の発疹だけであったり、口内炎だけが生じることもあります。数日間の発熱が見られることもありますが、熱がないこともあります。発疹や口内炎は1週間程度で改善します。手足口病の1から2ヶ月後に爪が剥がれ落ちる爪甲脱落症が見られることがあります。これはウイルスによって爪の産生が一時的に抑制されることによって起こると考えられいます。かならず新しい爪が生えてきますので、爪のない部分を軟膏で保護するなどの対症療法を行います。

・発疹
 手足口病のように特徴的な発疹でないウイルス性発疹症を、様々なエンテロウイルスが原因となって引き起こします。赤い斑点のようなもの、少しもりあがりのあるもの、時に出血性であったり水泡を伴うこともありますが、他の病気を疑うような所見がなければ経過観察を行い、通常は1週間程度で改善します。

・無菌性髄膜炎
 コクサッキーウイルスA2、4、7、9、B2から5、エコーウイルス4、6、7、9、11型などが原因となります。典型的には高熱と強い頭痛、吐き気を伴います。通常は自然と改善しますので、無菌性髄膜炎が疑われても症状が軽い場合には経過観察をすることもあります。確定診断には髄液検査が必要ですので、全身状態が良くない場合には病院へご紹介させて頂きます。また、まれですが脳炎や一過性の不全麻痺を合併することもあります。

・出血性結膜炎
 コクサッキーウイルスA24、エンテロウイルス70などが原因となります。潜伏期間は約1日で、突然の眼痛から始まり、結膜下に強い出血を生じます。通常は2週間以内に改善しますが、学校伝染病の第3種に指定されており、症状がよくなるまで登校できません。細菌の2次感染を予防するために抗菌薬の入った点眼薬を処方することがあります。発熱が見られることもあります。

 心筋心膜炎もエンテロウイルが原因で生じることがあります。心筋心膜炎はきわめて重篤な状態ですので、疑われる場合には即座に病院へご紹介いたします。心筋炎、心膜炎については他項に書きます。同じ胸痛を生じるものに、コクサッキーウイルスのB1から6型が引き起こす流行性胸膜痛(あるいは流行性筋痛症、ボルンホルム病)があります。流行性胸膜痛は数日で自然と改善する病気ですが、発熱を伴うこともあり、心筋心膜炎などとの判断が難しい場合には病院の受診を勧めさせて頂きます。また、エンテロウイルスの罹患中に心肺不全を生じた場合は脳幹脳炎によって間接的に心機能が障害されている可能性があり、心筋心膜炎との鑑別を要します。エンテロウイルス脳炎については他項に書きます。
 他、突発性発疹症の原因の一部もエンテロウイルスだと言われています。

 エンテロウイルスは夏風邪の原因になることからも推察できますが、環境中では湿度が高いほど長く生存できます。

 まとめ:エンテロウイルスはかぜ症候群やヘルパンギーナ、手足口病、急性出血性結膜炎、無菌性髄膜炎といった様々な病気の原因となる。

ヒトパレコウイルス:

 エコーウイルス22、23型と分類されていたウイルスが、他のエンテロウイルス属のウイルスと異なることが分かり、1999年にピコルナウイルス科に新しくパレコウイルス属というカテゴリーが作られました。エコーウイルス22型はパレコウイルス1型、エコーウイルス23型はパレコウイルス2型と改名され、現在では6つの血清型が見つかっています。パレコとは、par+echo、つまり、エコーウイルスに近いという意味です。パレコウイルスの感染は乳児期から始まり、10歳までにはかなりの人が一度は感染すると考えられています。しかし、かぜ症候群、胃腸炎のような症状を示すのはほとんどが1歳以下で、それ以降は感染しても無症状のことが多いと考えられています。

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