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肺吸虫

 日本で肺吸虫症の原因となるのはウェステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫である。ウェステルマン肺吸虫症が伝統的な食習慣に結び付いた風土病であるのに対し、宮崎肺吸虫症は料亭などの会食で感染する都市型感染症である。海外でウェステルマン肺吸虫に感染することもある。肺吸虫の第一中間宿主は淡水産巻貝、第二中間宿主は淡水産のカニやザリガニで、第二中間宿主の摂食で感染する。イノシシが待機宿主となっており、猪肉の生食で感染することもある。摂食された感染幼虫(メタセルカリア)は小腸壁から腹腔、横隔膜を経て胸腔に入り、3~4週目には肺内に到達し、さらに4~8週で成虫になる。感染初期には無症状であることが多い。胸腔内侵入期には胸膜炎、胸水貯留、気胸などが見られる。肺実質内に入ると、胸部X線で結節影、浸潤影、空洞病変として認められ、咳嗽、鉄錆色の血痰などの症状が現れ、喀痰内虫卵陽性となる。ウェステルマン肺吸虫症では肺実質病変が、宮崎肺吸虫症では胸膜病変が特徴的とされるが、むしろ、感染の時期や感染虫体数によって病態が異なると考えたほうがよい。肺結核、悪性腫瘍との鑑別が重要で、好酸球増多やIgE上昇が指標となる。喀痰・糞便内虫卵陰性でも本症を否定できない。補助診断として免疫血清学的検査が役立つ。治療にはプラジカンテルを投与する。胸水貯留例では、胸水を除去してから投薬する。
(医学書院 医学大辞典 一部改変)

 ウェステルマン肺吸虫の3倍体(ベルツ肺吸虫とも呼ばれる)はモクズガニ、2倍体はサワガニ、宮崎肺吸虫はサワガニの摂食により感染します。また、イノシシなどが待機宿主(虫体が幼若虫のまま体内に生存)となり、それらを摂食することでも感染します。調理中に他の食材に付着したものから感染することもあります。終宿主はウェステルマン肺吸虫の3倍体がイヌ、ネコなど、2倍体はタヌキ、キツネ、イヌなど、宮崎肺吸虫はイヌ、ネコ、イタチ、テンなどで、各々ヒトも終宿主になります。モクズガニ、サワガニの加熱が徹底され、一時期激減しましたが、近年でも一定数の報告があり、ほとんどはウェステルマン肺吸虫によるものです。市販の食用のサワガニは約20%がウェステルマン肺吸虫、または宮崎肺吸虫に汚染されていると報告されています。一隻(数は1隻、2隻と数えます)の摂取でも感染が成立します。潜伏期間は不明確なこともありますが、およそ2ヶ月以上、ウェステルマン肺吸虫の3倍体では血痰、ウェステルマン肺吸虫の2倍体や宮崎肺吸虫では自然気胸、胸水、胸痛などが主な症状だと言われています。また、自覚症状のないこともあります。成虫が産卵した虫卵は喀痰、もしくは喀痰が嚥下されて便から検出されることもあります。成虫の寿命は数年からそれ以上だと考えられています。肺以外の場所にも異所寄生することがあり、症状は侵入した臓器によってことなりますが、特に脳肺吸虫症は重篤で、けいれん発作、麻痺などの神経症状が引きおこされます。感染幼虫は食品を加熱する、もしくは冷凍することによって死滅させることができます。抗寄生虫薬によって治療します。

 まとめ:肺吸虫はモクズガニ、サワガニ、イノシシなどの生食により感染することがある。食品の加熱、または冷凍によって予防できる。

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