top of page
感染症 - メニューへ戻る

回虫

 成虫はヒト小腸に寄生し、雌は約30cm、雄約20cm、淡紅色の線虫。全世界の感染者数は約3億人である。日本では感染者が一時ほとんどなくなったが、最近、有機栽培野菜や自家菜園に糞便を肥料として用いたため、感染者が報告されている。虫卵は外界で発育して感染可能な成熟卵となる。虫卵摂取後、小腸内で孵化した幼虫は小腸壁から静脈内に入り門脈を経て肝臓、心臓、肺へ運ばれる。肺で発育後、肺胞から気管を上行し、咽頭、食道を経て再び小腸に達して成虫となる。
(医学書院 医学大辞典)

 哺乳動物に寄生する回虫目に属する寄生虫は、陸棲の場合は回虫科、水棲の場合はアニサキス科に分類されます。ヒトカイチュウはヒトにもっともありふれた寄生虫のひとつです。成虫は1から2年間生存し、成虫から産み落とされた卵は便とともに排泄され、糞口感染によって伝播されます。幼虫が肺を移動すると咳や喘鳴の原因となり、時に腸や胆管を虫体が物理的に閉塞してしまうことによって症状が出ることがあります。口や肛門から突然虫体が出現することがあります。好酸球の増多は幼虫が肺を移行している時に目立って認められます。子どもの場合は回虫の寄生によって栄養障害をきたすことがあります。抗寄生虫薬によって治療します。食品をよく洗う、加熱することによって予防できます。特に人糞を肥料とする有機栽培野菜はリスクが高いと考えられています。
 その他の各種の回虫はそれぞれの哺乳類に固有のもので、異種の生物に寄生しても成虫になれず産卵することがないため、糞便検査で虫卵が検出されることはありません。ヒトに幼虫移行症を引きおこす他の回虫症に関しては下記に書きます。

 まとめ:ヒトカイチュウは現在では頻度は少ないが有機栽培野菜などからの感染が散見される。抗寄生虫薬によって治療する。

犬回虫(Toxocara canis):

 生後2~3か月までの仔犬の腸管に寄生している回虫で、1歳以上の成犬ではほとんど感染がみられない。体長は成虫約10cm、成虫雌約15cmである。ヒトが幼虫形成卵を飲み込んだ場合内臓幼虫移行症となる場合がある。母イヌから仔イヌへの胎盤感染がしばしば認められる。
(医学書院 医学大辞典)

 犬回虫(トキソカラ・カニス)は世界中に分布するイヌ、およびイヌ科の動物に寄生する回虫です。成犬に寄生していてもふつう何も症状はありません。犬回虫は成犬の体内では成虫になることができず、雌犬の筋肉内に存在している幼虫が何らかの経路で仔犬に移行、仔犬の体内で成虫となって排卵します。犬回虫の卵は比較的厳しい環境にも耐えることができ、2週間ほどで成熟、幼虫包蔵卵となり、感染性を獲得します。幼虫包蔵卵をヒトが経口摂取してしまうと、幼虫移行症であるトキソカラ症を発症することがあります。トキソカラ症には眼幼虫移行症と内臓幼虫移行症があり、前者は網膜の炎症と瘢痕化から視力障害を、後者は幼虫が移動している内臓によって発熱、咳、中枢神経症状など様々な症状が出現します。抗寄生虫薬によって治療しますが、眼の障害は一度起きてしまうと回復することはなく、進行を防ぐことにとどまります。

 ヒトで報告されるトキソカラ症は多くが犬回虫によるものですが、猫回虫(トキソカラ・キャッティ)によるものも知られています。砂場における虫卵の汚染率は犬回虫、猫回虫とも同様であるとの報告があり、砂場でよく遊び、手を口に入れる園児、児童では抗体保有率が高い(知らない間に感染している)と報告されています。また、豚回虫(アスカリス・スーム)による幼虫移行症も知られています。アライグマ回虫(ベイリサスカリス・プロシオニス)による感染症は時に致命的であり、本邦では外来種であるアライグマが野生化し完全に定着していることから、今後ヒトへの感染も懸念されています。アライグマは他にもレプトスピラ症の原因にもなることから、取り扱いには注意が必要です。

bottom of page