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髄膜炎菌

 グラム陰性双球菌で、コーヒー豆を2つ並べたような配列を示し、鞭毛を欠き芽胞もつくらない。新鮮分離株では莢膜を形成するものがある、流行性髄膜炎の病原体で、患者の髄液から検出され、好中球の細胞質内に菌が貪食された形で観察される。患者および保菌者からの飛沫感染で鼻咽頭から侵入し、菌血症を起こし脳脊髄膜炎を発症する。人体外での生活力は弱い。低温や乾燥などに弱く、ペニシリン系など多くの抗菌物質にも感受性である。患者から分離されるのは主にA~C群である。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 髄膜炎菌はナイセリア属に属する細菌で、ヒトのみを宿主とし、ヒトの咽頭に常在していることがあります。環境中では生存できません。髄膜炎菌は莢膜多糖の種類によってA、B、C、D、X、Y、Z、E、W-135、H、I、K、Lの13の血清型が知られていますが、年齢や地域によってよく検出される血清型に違いがあります。本邦では戦後は激減し、現在では年間20例未満で推移しています。発展途上国では2歳以下の乳幼児の人口の1%が罹患する地域もあり、世界的には決してまれな病気ではありません。
 髄膜炎菌は何らかのきっかけ(喫煙、ストレス、先行する上気道炎など)で気道から血流に入り、血行性に化膿性髄膜炎を引きおこします。潜伏期間は2から10日(ふつう3から4日)とされています。典型的には高熱、頭痛、嘔気、項部硬直(首が前屈できない)といった髄膜刺激症状が出現しますが、好発年齢である2歳未満では初期には活気がなくなる、嘔吐するなど非特異的な症状のみのことがあります。進展すると年齢に関係なく意識障害、けいれんが出現します。入院と抗菌薬による治療が必要です。治療を行っても10人にひとり程度が命を落とします。細菌性髄膜炎については他項にも書いています。
髄膜炎菌にはワクチンがあります。流行地域に渡航する際には接種を勧められることがあり、旅行者専門のトラベルクリニックなどで接種を受けることができます。また、髄膜炎菌性髄膜炎は、寄宿舎など色んな地域から集まってきた人々が近接して暮らしている状況で発生しやすいとされており、米国では寄宿舎に住む大学の新入生にワクチンの接種を推奨しています。事実、本邦でも2011年に宮崎県の高校で集団発生があり、死亡者が出たことがニュースになりました。全員が寮生活者で部屋が隣接していました。

 まとめ:髄膜炎菌はヒトに感染して化膿性髄膜炎をおこすことがある。任意接種のワクチンが利用できる。

淋菌(Neisseria gonorrhoeae):

 グラム陰性双球菌で、ソラマメ型の2個の球菌が平面で接する配列を示す。鞭毛を欠き、芽胞をつくらない。淋病の原因菌である。成人における感染は性行為によるもので、尿道炎や女性では子宮頸管部に炎症が起こる。男性では前立腺炎など、女性では子宮内膜炎、卵巣炎などの泌尿生殖器に炎症が広がり、不妊の原因になる。ペニシリン系抗菌薬など多くの薬剤に感受性であるが、βラクタマーゼ産生淋菌が多くみられるようになってきた。またテトラサイクリン耐性淋菌も分離されている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 淋菌は髄膜炎菌と同じくナイセリア属に属する細菌で、ヒトのみを自然宿主とします。小児科では通常扱う疾患ではありませんが、淋菌感染症は性器クラミジア感染症に次いで頻度の高い性感染症となっています。本邦でもっとも患者数の報告が多いのは20歳代で、男性が女性より圧倒的に多く、これは、女性は症状が出にくいためだと考えられています。女性の場合は感染者の半数で菌が検出できないとも言われており、実際は報告数の数倍の患者がいると推察されています。髄膜炎菌とのDNAの相同性は70%で、通常上気道に存在する髄膜炎菌が膣炎を起こしたり、淋菌が咽頭炎を生じることがあります。淋菌は環境抵抗性が低く、ヒトの粘膜から離れると数時間で感染性を失うため、性行為以外から感染することはふつうありません。
 淋菌は下記のような症状を引きおこします。
・淋病
 潜伏期間は通常数日で、男性の場合は排尿時の熱感や尿道分泌物です。放置すると前立腺炎から排尿困難にいたったり、精巣上体炎から不妊になることがあります。初感染では男性の半数が無症状ですが、女性ではさらに無症状の人が多いと考えられています。しかし、放置すると骨盤腹膜炎に進展したり、さらにフィッツ-ヒュー-カーティス症候群を合併する可能性があり、早期治療が大事です。骨盤腹膜炎、フィッツ-ヒュー-カーティス症候群については性器クラミジア感染症の項を参照してくだい。抗菌薬によって治療します。
・播種性淋菌感染症
 淋菌が血行性に全身に拡散している状態で、発熱、複数の関節の痛み、手や足などに発疹や膿疱が出現します。化膿性関節炎にいたることもあり、入院と抗菌薬による治療が必要です。まれに心内膜炎、髄膜炎、肝周囲炎などを合併することがあります。
・淋菌性眼炎
 淋菌に感染している母体から分娩時に産道感染することによって、生後2から5日目の新生児に生じます。適切な治療が行われなければ角膜潰瘍、失明にいたることがあり、また、全身性の淋菌感染も考慮する必要があるため、通常はNICUで治療が行われます。
 近年、淋菌は抗菌薬の耐性化が進んでおり、深刻な問題となっています。

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