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A群β溶血性連鎖球菌

 血液寒天培地でβ溶血(細菌の溶血毒によりコロニーの周りの赤血球が溶けて透明になる溶血)を示す。ヒトに対する病原性が強く、ストレプトリジン、発赤毒素、ストレプトキナーゼ、ヒアルロン酸分解酵素、核酸分解酵素などの菌体外酵素を産生する。膿痂疹、蜂窩織炎、中耳炎、咽頭炎、扁桃炎、関節炎、猩紅熱、産褥熱、肺炎などを起こし、二次的疾患としてリウマチ熱や急性腎炎などを起こす。劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症も報告されている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 連鎖球菌とはグラム陽性球菌の一種で、AからW(I、Jは除く)までの21の血清型に分類されます。このうちβ溶血をおこすものを一般的に溶血性連鎖球菌(溶連菌)といい、ヒトに病気を引きおこすものは大部分がA群、B群、C群、G群に属しています。その中でも特にA群β溶血性連鎖球菌(GAS)は頻度が高く、一般に溶連菌というと、このGASのことをさします。GASは更に菌の表層に存在するM蛋白をコードするemm遺伝子型による分類が行われています。M蛋白は抗食菌作用と分子擬態(宿主の細胞と同様の抗原性を持つことで宿主の免疫機能から逃れる)の働きがあり、この分子擬態がリウマチ熱などの続発する自己免疫疾患に関係するのではないかと言われています。emm型は現在120種以上が知られています。

 A群β溶血性連鎖球菌(GAS)による感染症には下記のようなものがあります。
・咽頭炎、扁桃炎
 潜伏期間は2から5日で、突然の発熱とのどの痛みで発症します。扁桃腺に膿がつくことが典型的ですが、赤みだけのこともありますし、熱は出ないこともあります。苺舌が見られることがあります。子どもでは嘔吐することが多く、初期には胃腸風邪との区別が難しい場合もあります。いわゆるのど風邪の一種ですが、迅速検査で溶連菌が検出された場合は抗菌薬が必要です。
・猩紅熱
 発熱から一日程度で小さな赤い発疹が出現、急速に数が増え、全身が発赤したように見えます。皮膚はざらざらしています。発疹はふつう手のひらや足の裏、口の周りには見られません(口囲蒼白)。原因は溶連菌が産生する発赤毒素ですが、発熱がはっきりしないこともあり、かゆみを伴うため、蕁麻疹やアレルギー、湿疹が出たと仰って受診される場合があります。症状とのどの迅速検査で診断します。発疹の強い皮膚は数日から10日前後で皮がむけて治っていきます(膜様落屑)。発疹の程度には幅がありますので、触るとざらざらするにきびのような発疹が体にできるだけのこともあります。原因のよくわからない発疹が続く場合には、溶連菌をチェックすることが原因を解明する糸口になるかも知れません。
・伝染性膿痂疹
 いわゆるとびひです。溶連菌の場合は分厚いかさぶたができることが多いと言われますが、乳児で滲出物の著しく多いものを経験したことがあります。通常は軟膏に加えて内服の抗菌薬も処方します。学校感染症の第3種に指定されており、治癒するまで水泳が禁止されています。
・肛囲溶連菌性皮膚炎
 GASはおしりに皮膚炎を起こすことがあります。真菌(カビ)による皮膚炎との区別が難しいことがあります。
・丹毒
 GASによる真皮までの化膿性炎症で、顔や足に多いです。発熱を伴うことがあります。肉眼的には蜂窩織炎との区別が難しいことがあります。
 これら通常の感染症の場合は、ペニシリン系抗菌薬の10日間、セフェム系抗菌薬の5日間投与が推奨されています。しかし、ペニシリン系抗菌薬は口腔内常在菌の産生する酵素によって効果が低下する可能性が指摘されており、また、セフェム系抗菌薬の5日間投与では不充分とする報告もあるため、当院ではGASと診断した場合にはセフェム系抗菌薬の7日間投与をスタンダードとしています。
・壊死性筋膜炎
 GASの感染症の中ではもっとも重症のタイプのひとつで、下記の毒素性ショック症候群とともに、劇症型A群溶連菌感染症と呼ばれます。場所は足が多く、急激な腫れ、痛みを伴い、全身状態がまたたく間に悪化します。患部の壊死は1時間に数cmの早さで広がることがあり、早急で集中的な治療が必要です。GASが人食いバクテリアと呼ばれるのはこういった症状を引き起こすからです。
・毒素性ショック症候群
 もっとも重症の場合で、突然の高熱、外毒素によるショックを伴って発症し、錯乱、低血圧、血小板減少、凝固異常など、重症感染症を示唆する所見が急速に進行します。半数に敗血症や壊死性菌膜炎を合併します。集中治療を行っても命を落とすことがまれではありません。
 敗血症、壊死性菌膜炎などの重症のGAS感染症は、水痘(水ぼうそう)の罹患中にGASに重複感染すると起こりやすいという報告があります。
・急性糸球体腎炎
 GASの気道感染から1、2週間、皮膚感染症では3から5週間後に発症することがあります。突然の血尿、溢水による浮腫と高血圧が主な症状です。尿の色がふつうでも尿潜血反応はほぼ全例で陽性になります。浮腫はまぶたから見られることが多いですが、気付かれないこともあります。急性期には安静にし、浮腫や高血圧は通常数日から10日程度で改善しますが、症状によっては1ヶ月程度の入院が必要になることもあります。特異的な治療法はなく、対症療法がメインになります。時に風邪などがきっかけで再燃することがあり、罹患後1年程度は定期的な検尿が必要です。低補体血症、先行するGAS感染症、特異抗体の検出などから他の腎炎と区別されます。
・リウマチ熱
 GAS感染の数週間あとに続発することがある自己免疫性炎症疾患です。典型的には発熱、関節痛から始まり、心筋心膜炎、発疹、舞踏病などのいくつかの症状が組み合わさって出現します。急性期には入院が必要です。もっとも重要なのは心炎で、GASの再感染によって弁膜症などが悪化する可能性があるため、数年から十数年、場合により一生涯の抗菌薬の予防内服が行われます。
・溶連菌感染後反応性関節炎
 リウマチ熱の診断基準を満たさない、リウマチ熱の症状の弱い亜型だと考えられています。GAS感染後、リウマチ熱よりは早い時期に症状が出現し、痛む関節の数も少ないのがふつうです。ただし心筋心膜炎を合併することがあるため、定期的な心臓検診と、1年間の抗菌薬の予防内服が検討されます。
 リウマチ熱はGAS感染時に適切に抗菌薬が使用された場合はほとんど発症することがありません。ですので、途中で熱が下がっても処方された抗菌薬は最後まで飲みきる必要があります。一方で、抗菌薬の投与によっても急性糸球体腎炎の発症率はあまり変わらないと言われています(重症度は低下するようです)。医師によってはGAS感染後に尿検査を行うことがありますが、腎炎の発症率そのものが低く、その日までに発症して症状が続いていなければ検知できませんので、当院では感染後の尿検査は必須にはしていません。むくみや尿の色が赤くなるなど疑わしい症状が出てきた場合にはすみやかに受診して下さい。ご希望がありましたら、GASの気道感染2から3週間後に予約をお取りしますので、尿検査にいらして下さい。
 GASには様々な血清型がありますので、短期間で再び感染することがあります。しかし、1~2ヶ月以内の再感染が疑われる場合は除菌に失敗しているかも知れませんので、再度10日分の抗菌薬を処方させて頂きます。また、症状はないけれどGASが定着している健康保菌者が5から30%くらいの割合で存在しています。健康保菌者が合併症をおこすことはまれで、一時的に除菌してもしばらくするとまた菌が定着すると言われています。健康保菌者を除菌するかどうかは意見の分かれるところではありますが、GASの自然宿主はヒトで、健康保菌者が感染源として重要だと考えられていますので、GASを検出した場合には当院では積極的に除菌を行います。

 まとめ:A群β溶血性連鎖球菌(GAS)はのど風邪の原因のひとつだが、時に重症化したり、合併症を起こすことがある。リウマチ熱は抗菌薬を適切に投与することで予防できる。

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