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黄色ブドウ球菌

 グラム陽性球菌。菌体外酵素である血漿凝固酵素(コアグラーゼ)を有するブドウ球菌の代表的なもので、コアグラーゼのほかに、DNアーゼ、エンテロトキシン、TSST-1(toxic shock syndrome toxin 1)、ヘモリジン、エクスフォリアン(表皮剥脱素)などを産生する。また、細胞壁成分としてほとんどのIgG型ヒト免疫グロブリンのFc部分と結合するプロテインAを含んでいる。ヒト鼻腔、皮膚、腸管などに常在し、皮膚感染、肺炎、骨髄炎、腸管感染、毒素性ショック症候群などを起こす。抗生物質に対しては、ペニシリン分解酵素産生菌が増えているが、メチシリンが有効である。しかし、病院内感染の原因菌の1つとして問題になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は多剤耐性菌である。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 ブドウ球菌は通性嫌気性のグラム陽性球菌で、顕微鏡で観察するとブドウの房のようにいくつかの菌体が集まっているためにそう呼ばれます。現在35菌種が知られていて、ヒトからはそのうち15菌種が検出されます。ブドウ球菌はヒトの皮膚、鼻腔、消化管といった外界につながっている場所にふつうに存在します(常在菌)。ヒトから検出される菌種は、黄色いコロニーを形成する黄色ブドウ球菌、白色からレモン色のコロニーを形成する表皮ブドウ球菌、橙(だいだい)色のコロニーを形成する腐性ブドウ球菌の3つに大別されます。病原性に大きくかかわる菌体外酵素、コアグラーゼを産生するのはこのうち黄色ブドウ球菌だけです。コアグラーゼは血漿を凝固させる働きがあり、コアグラーゼによって凝固した血漿で菌体を包むことで、宿主の免疫反応から逃れます。
 黄色ブドウ球菌による感染症には下記のようなものがあります。
・伝染性膿痂疹
 いわゆるとびひです。伝染性膿痂疹の原因の多くは黄色ブドウ球菌ですが、溶連菌など他の細菌が原因になることもあります。抗菌薬の外用と、症状の程度によっては内服薬も必要になります。
・ブドウ球菌熱傷様皮膚症候群
 黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥奪毒素が原因になります。典型的には発熱と、目、鼻、口の周りに赤みが出てくることから始まります。赤みはさらに全身へ広がり、皮膚のひび割れ、やけどの様な状態へと変わっていきます。患児は痛みのために食欲低下をきたし、重症感が強く、多くは入院が必要になります。抗菌薬によって菌体が死滅しても毒素はしばらく残るため、治療を始めても数日は症状が進行します。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が原因のこともあり、ホスホマイシンを併用すると治りが早くなる症例をよく経験します。治癒するまでには2から3週間かかります。
・新生児TSS様発疹症
 黄色ブドウ球菌が産生するTSS-1という毒素が原因で発症します。通常、生後7日以内に発熱と発疹で気付かれます。数日の経過で自然軽快することが多いですが、注意深い経過観察が必要のため、診断されたらNICUへ収容されることがあります。MRSAが原因のことが多く、他の赤ちゃんへの伝播に注意しなければいけません。
・食中毒
 黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンに汚染された食品を摂取することで発症します。毒素型食中毒の代表で、数時間の潜伏期間ののち、嘔吐、腹痛、下痢などの症状があらわれます。2日程度で改善しますが、脱水がひどい場合には点滴が必要になることもあります。ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンは熱に強く、通常の加熱で失活させることは難しいと言われています。ブドウ球菌が熱で死滅しても毒素は残るため、食品を常温で長時間放置するなど、そもそもブドウ球菌が増える原因を作らないことが大切です。
 他にも様々な症状を起こすことがあります。黄色ブドウ球菌による肺炎は肺化膿症にいたる頻度が高く、重症です。溶連菌よりは軽症のことが多いと言われますが、毒素性ショック症候群の原因になることもあります。

 近年は、院内発生していたMRSAとは違ったタイプのMRSA(市井獲得型MRSA)の出現が報告されています。市井獲得型MRSAは、健常人でも重症感染症にいたることが知られており、子どもから比較的多く検出されるという特徴があります。とびひなど黄色ブドウ球菌の感染が疑われる場合は、常にMRSAを考慮して診療すべき時代になっています。

 まとめ:黄色ブドウ球菌が原因となるものはとびひや食中毒が多いが、時に入院が必要となる感染症も引き起こす。

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