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腸炎ビブリオ

 わが国で発生する食中毒の最も重要な原因菌の1つである。通性嫌気性グラム陰性桿菌。芽胞はない。発育に塩化ナトリウムを要求する海水細菌の一種の好塩菌で、無塩ペプトン水では発育しないが、3~5%の塩化ナトリウム加ペプトン水ではよく発育する。心臓毒性を有する耐熱性溶血毒、耐熱性溶血毒類似毒を産生するので、感染時死亡することがある。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 腸炎ビブリオはコレラ菌と同じく、ビブリオ科ビブリオ属に属しています。ビブリオはバイブレーションのことで、菌体を取り巻く周毛性鞭毛が細かく振動している様から名付けられました。この周毛性鞭毛は、培養条件などによっては見られなくこともあります。腸炎ビブリオは表面抗原(O抗原)によって1から11に、また莢膜抗原(K抗原)によって1から75(いくつかは欠番)に分類されます。たとえばO3:K6のように表記します。
腸炎ビブリオは下記のような症状を引きおこします。
・食中毒
 腸炎ビブリオは、6から24時間の潜伏期ののち、耐えがたい腹痛で発症し、発熱、嘔吐、下痢をともなう胃腸炎の症状を引きおこします。重症化することは少なく、ほとんどは数日の対症療法のみで治癒します。原因食品で分かっているものはほとんどが魚介類(刺身、寿司など、)とその加工食品です。また、二次汚染された野菜や漬物が原因見られる報告も多数見られます。腸炎ビブリオを発症するには100万から数千万個以上の菌を摂取する必要があると言われていますが、分裂速度が早く(条件が整えば8から10分に1回分裂する)、常温で放置された食品では短時間で発病菌数に達することがあります。ビブリオ属は細菌の中では例外的にふたつの染色体を持っており、染色体ひとつの大きさが小さいため分裂速度が速いのではないかと考えられています。腸炎ビブリオの毒は耐熱性(加熱すると失活しますが、体温で毒性が復活する)のため、加熱して菌が死滅しても食中毒を発症することがあります。腸炎ビブリオによる食中毒は夏に多く発生します。
 腸炎ビブリオの他にも、ビブリオ・ミミカスがカキなどから食中毒を引きおこすことがあります。

 75℃、1分程度の加熱が有効です。

 まとめ:腸炎ビブリオは食中毒の原因となる。食品の加熱が有効であるとともに、常温に長時間食品を放置しないことが重要である。

ビブリオ・バルニフィカス:

 沿岸海水中に常在するビブリオ属の桿菌。肝硬変などのある患者に経口的にまたは創傷から感染し、早い経過で敗血症やショックなどの重篤な病態に陥る。発生頻度は低いが、死亡率が高い。
(医学書院 医学大辞典)

 一般に「人食いバクテリア」と呼ばれる菌種で、重篤で急速に進行する感染症を引きおこします。腸炎ビブリオより低い塩分濃度を好むため、河口に近い場所などによく生息しています。数時間から24時間の潜伏期間ののち、悪寒、発熱から始まり、敗血症や壊死性筋膜炎といった重篤な状態が急速に出現、進展していきます。敗血症になった場合、積極的な治療を行っても半数以上の人が命を落とすと考えられています。壊死した部分は切除が必要になります。胃腸炎症状をともなこともあります。基礎疾患のない人が発症することはまれですが、海水で傷口を洗ったり、けがのもとになる海岸の素足での移動は避けた方がよいでしょう。腸炎ビブリオと同じく汚染された食品からも感染しますので、生の海産物には注意が必要です。肝機能障害、または鉄剤内服中の人はリスクだと考えられています。
 他に「人食いバクテリア」と呼ばれるものにはA群β溶血性連鎖球菌(劇症型)があります。

コレラ菌:

 グラム陰性菌の1つであるVibrio choleraeによって起こる。感染予防法により、三類感染症に指定されている。本菌によって汚染された水あるいは食物を摂取することにより感染する。潜伏期間は1~3日である。小腸内で増殖した本菌はコレラ毒素を産生する。コレラ毒素によって、腸管内へ多量の水・電解質が分泌される。症状は米のとぎ汁様の水性下痢と嘔吐、著しい脱水症と代謝性アシドーシスが典型的である。水性下痢は重症の場合1日5~10Lを超える。治療は下痢・嘔吐により喪失される水・電解質の補充、WHOが推奨する経口輸液(ORS)が著効を示す。適切な治療で予後は著しく改善する。流行地では生水、生食品を摂取しない。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 コレラ菌はビブリオ科ビブリオ属に属する菌で、血清型O1、O139といったコレラ毒素を産生する菌によって重度の下痢症が引きおこされます。血清型O1はさらに毒性の強い古典型と、毒性はやや弱いエルトール型(近年では古典型と同様の毒性を持つものも見つかっている)に分けられます。後者はバイオフィルムを形成しやすいため自然界での生存性が高く、現在はエルトール型コレラの流行しか見られなくなりました。コレラ菌はヒトの消化管内でのみ増殖でき、数日間から5日(通常1日)の潜伏期間ののち、水様便が出現、下痢は1日に20回以上になることもあり、数日から1週間程度続きます。ふつう腹痛や発熱はなく、むしろ低体温になります。下痢の総量は体重の2倍にまでなることがあり、脱水のため目や頬は落ちくぼみ、独特のコレラ顔貌になります。死因のほとんどは重度の脱水による循環不全です。無治療では命を落とすこともまれではありませんが、軽症コレラの中には症状のまったく出ない人もいるため、実際の統計よりはるかに多いコレラの感染者がいるのではないかと考えられています。適切な治療によって死亡率は100人にひとり以下に減らすことができます(先進国では0.001%)。経口補水液(ORS)は有効ですが、腸管を休ませることも必要なため、先進国では絶食と点滴加療が一般的です。抗菌薬も使用されます。本邦での発生はほとんどが旅行者下痢症(海外での感染)です。生水を避け、よく加熱した食品を摂取することで予防できます。
 学校感染症では第3種に指定されており、感染のおそれがないと判断されるまで登校が認められません。

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