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結核

 結核菌の主として飛沫吸入によって起こる感染性疾患。菌が肺胞に定着すると初感染巣が形成され、さらにリンパ行性に所属肺門リンパ節にも到達して病変がつくられる。この対をなす肺内と肺門リンパ節の病巣を初期変化群という。多くは石灰沈着を残して治癒(硬性初期変化群)し、結核免疫が成立してツベルクリン反応は陽性となる。治癒せずに一次結核として発症するものもあるが、多くはいったん治癒した後、結核菌が再増殖し、二次性結核として発症する。ふつう孤立性臓器結核の形をとり、多くは肺結核であるが、腎尿路系、骨関節系などの肺外結核もある。現在はリファンピシンとイソニアジドを含む多剤併用で、期間も6から12ヶ月の短期化学療法が主体である。結核菌は突然変異により微量の耐性菌が発生している。単剤治療や治療の中断など不適切な治療を行うと感受性菌が死滅し、代わりに耐性菌が増殖して難治性の薬剤耐性結核となりやすい。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 結核はマイコバクテリウム・ツベルクローシス(結核菌)による感染症で、世界的には依然としてトップクラスの死者数を有しています。人類の総人口の3分の1が結核に感染していると推定され、その99%が発展途上国で発生しています。結核は地球規模で対策が必要なエイズ、マラリアと共に三大感染症に数えられています。日本は結核の中蔓延国(米国は2011年の罹患率は10万人対4.1人、一方本邦は2013年に16.1人)とされています。当院の位置する滋賀県は全国平均よりはやや低目の罹患率で推移しており、2013年は10万人対12.9人、隣接する京都府は14.8人、愛知県は15.9人でした。人口密集地域で発生が多く、東京特別区では22.5人、大阪市39.4人、名古屋市26.5人と深刻な数字です。マイコバクテリウム・ツベルクローシスは細長のグラム陽性桿菌(通常の染色では染まりにくく、チール・ネルゼン染色などを行う)で、芽胞、鞭毛、莢膜は作りません。マイコバクテリウム・ツベルクローシスなど、マイコバクテリウム属に属する細菌は塩酸酸性アルコールによる脱色素剤に抵抗性をもつことから抗酸菌と呼ばれます。抗酸菌はマクロファージに取り込まれた後、酵素による殺菌を行うリソソームのエンドソームへの結合を妨げることによってマクロファージ内で生存、増殖することが可能で、全身の様々な場所に感染します。結核菌は飛沫核による空気感染で伝播されることが、感染が拡大しやすい要因のひとつです。
 マイコバクテリウム・ツベルクローシスは下記のような症状を引きおこします。
・肺結核
 マイコバクテリウム・ツベルクローシスによる感染症の9割が肺結核です。マイコバクテリウム・ツベルクローシスに暴露され、感染が成立しても多くは無症状か、軽度の気道症状のみで気付かれないことが多く、免疫が成立するとマイコバクテリウム・ツベルクローシスは死滅するか、冬眠状態となり、ほとんどの人が生涯発病しません。これは初感染病巣に形成された乾酪組織(結核結節)が空気を遮断することでマイコバクテリウム・ツベルクローシスの増殖を抑制するからです。こういった初感染病巣は数ヶ月後から石灰沈着が始まり、数年後には石状になります。感染したマクロファージの一部は所属の肺門リンパ節や肺尖部にも病変を作りますが、これも被胞化、石灰化しマイコバクテリウム・ツベルクローシスを封じこめます。初期感染部位の石灰化瘢痕をゴーン病巣、肺尖部の結節状瘢痕をサイモン病巣といい、肺門リンパ節病巣とあわせて初期変化群と呼びます。しかし、免疫力の弱い乳幼児や高齢者では2年以内、おおむね6か月以内の潜伏期を経て初感染発病することがあり、これを一次結核といいます。このような場合には初期には風邪のような症状、微熱、進行すると胸痛、呼吸困難感、血痰の出現、縦隔リンパ節結核、頚部リンパ節結核、胸膜炎のほか、粟粒結核(血行性に2臓器以上に活動性の病変が形成されている状態、肺野には画像検査で粟の種に似た小さな粒状の病変、結核小結節が無数に認められます)、結核性髄膜炎にいたることもあります。結核性髄膜炎は下記を見てください。子どもでは肺門リンパ節の増大から呼吸困難になることがあります。肺の病巣の乾酪物質が充満し、所属気管支に破れると空洞が形成されます。マイコバクテリウム・ツベルクローシスは酸素分圧が高い場所でよく増殖するため、この開放性空洞内では非常に増えやすく、他人、また、自分の健康組織への感染源となります。肺の病変はふつう背側上方から前下行、片側から対側へと拡大していきます。粟粒結核や大きな空洞の破裂によって、マイコバクテリウム・ツベルクローシス抗原に対する過敏反応で呼吸窮迫症候群にいたることがあります。初感染のあと、数年から数十年の休眠期間を経て、宿主の免疫力の低下などによってマイコバクテリウム・ツベルクローシスが再活性化、発病することを二次結核といいますが、二次結核は一次結核と時間的な差以外に本質的な違いはなく、これらと同様の症状がおこりえます。二次結核は酸素分圧の高いサイモン病巣からおこることが多いと言われています。マイコバクテリウム・ツベルクローシスにはBCG(カルメット・ゲラン桿菌)という弱毒株による生ワクチンがありますが、BCGは免疫力の低い乳幼児に接種することによって、乳幼児の一次結核を予防することを目的としており、成人の二次結核についての効果は乏しいと考えられています。BCGについては他項に書きます。マイコバクテリウム・ツベルクローシスの感染が疑われる場合には、抗酸菌塗抹検査(ガフキー号数)、核酸増幅検査(PCR法)、ツベルクリン反応検査、インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)などが行われ、感染拡大を防ぐために、排菌の疑いが否定されるまで隔離が必要となります。ガフキー陽性など排菌しており、感染の可能性が高い場合はそのまま結核病床での入院加療となります。排菌しておらず潜在性結核感染症の場合は、発病するリスクが高いと判断された場合などに抗菌薬による治療が考慮されます。
・結核性髄膜炎
 結核性髄膜炎はマイコバクテリウム・ツベルクローシス感染症の中でもっとも重大なものであり、後遺症が残ったり、命を落とすこともまれではありません。全結核患者の1%程度に合併します。5歳未満の乳幼児はハイリスク群ですが、現在はBCGの徹底によって極めてまれになり、発生は成人と高齢者に集中しています。結核性髄膜炎は脳実質や髄膜に形成された粟粒結核病巣からくも膜下腔へ結核菌が散布されて髄膜炎を引きおこすとともに、炎症によって閉塞性水頭症、交通性水頭症、脳底部に虚血や梗塞を生じます。結核性髄膜炎は比較的ゆっくりとした経過(亜急性)で進行し、髄膜刺激症状が出現する前に発熱、頭痛、吐き気、食欲低下などが2週間以上続くことがあります。前駆期と呼ばれるこの時期の発熱は微熱程度のことがあり、乳幼児では初期には不機嫌、食欲低下のみが症状のこともあり、初期の診断は時に容易ではありません。患者は徐々に傾眠傾向となり、せん妄が出現、時間が経つごとにさらに意識レベルが低下、不随意運動、眼の運動の障害、四肢の麻痺などの局所神経症状、けいれんなどが出現します。時に失明や難聴にいたることがあります。治療によってどの程度回復するかは治療開始時の症状の進行程度、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの薬剤耐性の程度などによって左右されます。髄液検査は一般的な細菌性髄膜炎よりもマイルドな所見を示しますが、好中球ではなくリンパ球優位の細胞増加、糖の中等度の低下などが診断の手がかりになります。治療は肺結核に準じて行われます。
 他に膀胱炎や腎盂腎炎、生殖器結核、肝臓結核、腸結核、腹膜炎、心膜炎、関節炎など多様な症状を引きおこすことがあります。また、皮膚結核として特徴的な症状をおこすことがあり、病巣から結核菌が証明される真性皮膚結核と、病巣から結核菌が証明されずアレルギーの関与などが考えられる結核疹に分けられます。前者には血行性、リンパ行性に特に顔面や首に病変を形成する尋常性狼瘡、体内の病巣から連続的に皮膚に波及して冷膿瘍(発赤、熱感などがない)を伴う皮膚腺病、結核に対して免疫を持っている人の外傷に新たな結核菌が感染して生じる皮膚疣状結核、後者にはBCGによっても生じることがある壊疽性丘疹性結核疹、小さな隆起した皮疹を多数認める腺病性苔癬、下肢に好発して浸潤を触れるバザン硬結性紅斑などが知られています。
結核はかつては労咳、不治の病と恐れられてきましたが、現在では一般的な肺結核においては標準治療となる6ヶ月間の服薬でほとんどが完治可能です。排菌しているなどで入院が必要となった場合の平均入院期間は65日で、治療中は公費での補助が受けられます。途中で服薬を中断すると結核の再燃、耐性菌の出現などの問題が生じますので、期間中は最後までしっかりと内服することが大事です。マイコバクテリウム・ツベルクローシスによる感染症は疫学的に重大なものです。もし、知らない間に結核感染者と接触していたなどで保健所から指示があった場合には、必ずその指示に従うようにして下さい。
 結核については結核予防会結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp/)も参照してください。

 まとめ:マイコバクテリウム・ツベルクローシスは結核の原因になる。肺結核は適切に治療を行うことによって完治可能である。BCGによって乳幼児の一次結核を予防できる。

非結核性抗酸菌症

 ラニオンは、発育速度とコロニーの発色性を基本に、光発色菌、暗発色菌、非光発色菌、迅速発色菌の4群に分けた。これらの菌は塵埃、土壌、水などの自然界に由来すると考えられており、ヒトからヒトへの感染は無視しうるとされている。一般にビルレンス(毒力)が弱く、日和見感染症の起炎菌となり、宿主の抵抗力の低下に伴って発症することが多い。エイズの日和見感染症の1つとしても知られている。非結核性抗酸菌症の中で、現在最も多いのはMycobacterium avium complex(MAC)症、次いでM. kansasii症である。非結核性抗酸菌症のほとんどは肺疾患であるが、皮膚疾患、リンパ節炎なども起こすことがある。消毒法、治療法も結核菌に準ずるが、M. kansaiiを除いた多くのものは抗結核薬に耐性である。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 非結核性抗酸菌症とは、結核菌とらライ菌を除く抗酸菌による感染症のことです。本邦では30種類以上の菌種による感染の報告がありますが、ほとんどはマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス(マイコバクテリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラーの総称:MAC)で、次に多いのがマイコバクテリウム・カンサシです。結核菌とはことなり、ヒトからヒトへの感染はないとされています。マイコバクテリウム・カンサシは子どもの慢性に経過する下顎、ないし額下頚部リンパ節炎の原因になることがあります。抗菌薬によって治療します。

ハンセン病

 抗酸菌である、らい菌によって起こる慢性感染症。伝播様式は十分には分かっていないが、幼少期の長期暴露が関連していると考えられる。罹患部位は皮膚、上気道、精巣、眼、表在性の末梢神経などで、わが国での新規発生はきわめて少ないが、世界的には1000万人の患者がいるとされている。潜伏期間は通常2~5年。臨床上大きく、らい腫型(L型)、類結核型(T型)の2型と、未分化群(I群)と境界群(B群)とに分けられる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 ハンセン病はかつてはらい病と呼ばれていましたが、差別的呼称として、現在では用いられることはありません。ハンセン病の原因となるのはマイコバクテリウム・レプレという抗酸菌の一菌種で、きわめて感染性が低く、乳幼児期に頻回の暴露を受けなければ感染が成立することはありません。また、小児期以降に感染した場合は生涯発病することなく終える人がほとんどだと考えられています。現在、国内での患者は大半が在日外国人であり、本邦で新規患者が発生する可能性はほとんどありません。ハンセン病の潜伏期間は数年、場合により数十年にわたり、皮膚と表在性の末梢神経に病変を形成します。皮疹は、かゆみや痛みが乏しく、紅斑、白斑、丘疹、結節、環状紅斑など多彩な外観を示します。皮疹の部位とその周囲では知覚(触覚、痛覚、温冷覚など)の低下があり、表在性の末梢神経の肥厚を認めます。ハンセン病は、発症初期のI群、その後、らい菌に対して免疫能が高く病変が限局するTT型(類結核型)、免疫反応に乏しく全身性に病変が広がるLL型(らい腫型)、その中間のB型(BT型、BB型、BL型)の4つの群に分類されます。抗菌薬によって治療します、らい菌が検出しにくい少菌型、らい菌が検出される多菌型かどうかによって治療期間がことなります。

ブルーリ潰瘍

 ブルーリ潰瘍はマイコバクテリウム・アルセランス、およびマイコバクテリウム・シンシュエンスによって生じる皮膚の感染症です。いずれも環境中に存在する常在菌ですが、確かな感染経路は現在も分かっておらず、水辺に生息する何らかの生物によって媒介されるのではないかという説もあります。初期には虫刺されに似た赤い発疹ですが、徐々に大きくなり皮下結節になります。その後、数日から数週間で中心部に潰瘍が出現し、さらに病変が広がっていきます。これは菌の産生するマイコラクトンと呼ばれる毒素によるもので、末梢神経の障害も引きおこすので、他の細菌の二次感染がおこらなければ痛みもほとんどありません。当院が位置する滋賀県では2014年までに5例の報告があります。まれな疾患ですが全年齢で発生します。抗菌薬によって治療しますが、悪性腫瘍などと見分けがつかず、診断には病理組織検査、核酸増幅検査が必要ですので、疑わしい場合は病院の受診を勧めさせて頂きます。

プール肉下種

 マイコバクテリウム・マリヌムががプールや水槽でヒトの主に四肢の皮膚の小さな外傷部から侵入し、2~4週間の潜伏期の後に発症する非結核性抗酸菌症の1つ。完成した皮疹は浸潤性紅斑局面であり、膿瘍や潰瘍を形成することもある。リンパ行性に進行、あるいは全身皮膚に多発することもあるが、内臓臓器が侵されることはない。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 皮膚に病変をきたす非結核性抗酸菌症の中でもっとも頻度の高い疾患です。プールや熱帯魚の水槽から感染することが多く、本邦の患者の半数は水族館職員と熱帯魚飼育者です。皮膚の小さな傷に感染すると2から4週間の潜伏期ののち、赤みのある発疹が出現、徐々に落屑を伴ういぼのような病変を形成していきます。病変はひとつのことが多いですが、全身に多数出現することもあります。抗菌薬によって治療しますが、数ヶ月から一年以上継続する必要があります。

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