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大腸菌

 ヒトおよび動物の腸管内に常在する代表的な菌種。通性嫌気性グラム陰性桿菌で、鞭毛を有するものと欠くものがある。健康なヒトの大腸の正常細菌叢を構成する菌ではあるが、腸管感染症と腸管外感染症を起こす菌がある。腸管感染症原因菌(下痢を起こす菌)としては、①腸管病原性大腸菌、②腸管組織侵入性大腸菌、③毒素原性大腸菌、④腸管出血性大腸菌、⑤腸管凝集付着性大腸菌の5種類が知られている。また腸管外感染症としては、尿路感染症と新生児化膿性髄膜炎などが知られている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 大腸菌は、菌体表層(外膜)に存在するO抗原によって血清型別に分類されます。大腸菌のO抗原はO-1からO-181まであり(いくつかの欠番を含む)、O-157は157番目のものということです。鞭毛を持つものはさらにH抗原による血清型に分けられます。H抗原は53種類が報告されています。大部分はヒトに害のない常在菌で、ヒトに病気をひきおこすものを病原性大腸菌と言います。
 病原性大腸菌は下記のような症状を引きおこします。
・食中毒
 病原性大腸菌はいずれのタイプも食品などから感染します(食中毒)。腸管病原性大腸菌、毒素原性大腸菌の潜伏期間は半日から3日で、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状を引きおこしますが、腸管病原性大腸菌の方がより症状が重いと言われています。腸管侵入性大腸菌は、赤痢菌と同じ病原遺伝子を持っており、粘膜上皮細胞に侵入(Ⅲ型分泌装置による)して細胞の壊死、脱落を引きおこします。潜伏期間は半日から2日程度、症状が軽ければ他の胃腸風邪と区別がつきませんが、重症になると頻回の下痢便に続いて血や膿が排泄される赤痢の症状を示します。腸管凝集性大腸菌は腸管の粘膜上皮に集まって付着し、耐熱性エンテロトキシンを産生することで下痢をおこすと考えられています。腸管凝集性大腸菌の下痢は2週間以上続くことが多いです。腸管出血性大腸菌は、ベロ毒素(ベロ毒素1:志賀毒素、およびベロ毒素2)を産生するものがそう呼ばれます。O-157がよく知られていますが、O-157もベロ毒素を産生するものとそうでないものがあり、他に、O-26、O-91、O-111、O-128などがベロ毒素を産生する可能性があると報告されています。腸管出血性大腸菌の潜伏期間は3から5日で、発熱、激しい下痢、血便が出現し、腎臓にベロ毒素が作用した場合、溶血性尿毒症症候群を合併することがあります。溶血性尿毒症症候群については下記に書きます。腸管出血性大腸菌はわずかな菌数を摂取しただけで発症することが知られており、特に本邦で検出される腸管出血性大腸菌の7割を占めるO-157:H7は、たった50個でも感染が成立すると言われています。便に腸管出血性大腸菌を認めた場合は、他の人への二次感染を予防するため、症状がなくても抗菌薬によって除菌を行います。
・溶血性尿毒症症候群
 溶血性尿毒症症候群は、極めて重大な合併症で、腸管出血性大腸菌感染症の症状に引き続いて発生します。時に透析が必要となる腎障害、けいれん、意識障害を伴う脳症、他に、高血圧、消化管合併症(腸重積、虫垂炎、膵炎、腸管穿孔に伴う腹膜炎など多岐にわたる)、糖尿病、循環器系合併症(心筋炎、拡張型心筋症、心筋虚血など)などを引きおこし、患者はしばしば集中治療が必要となります。治癒しても、腎臓などに後遺症が残ることがあります。時に下痢が先行せずに溶血性尿毒症症候群を発症することがあり、遺伝的素因などとの関連が考えられています。
・膀胱炎
 病原性大腸菌には、上記のような下痢を引きおこす大腸菌(下痢原性大腸菌)の他に、尿路病原性大腸菌があります。膀胱炎のほとんどはこの尿路病原性大腸菌が原因であり、抗菌薬の投与によって治療します。尿路病原性大腸菌には、O-1、O-6、O-25などが知られています。
 他に、大腸菌は新生児の髄膜炎の原因としても重要です。

 病原性大腸菌感染症の原因食品としては、生や加熱が不充分な肉類、特にウシの腸管は腸管出血性大腸菌が検出される頻度が高いと言われており、注意が必要です。その他に、肉類を調理する際に二次汚染されてしまった野菜や、水の中、土の中で数週間から数ヶ月生きるため、井戸水やプールの水が感染源になることもあります。低温に強く冷凍庫内でも生きていますが、75℃、1分程度の加熱でおおよそが死滅すると考えられています。

 まとめ:大腸菌はヒトの大腸にふつうに存在する常在菌だが、時に感染性腸炎を引きおこし、腸管出血性大腸菌は溶血性尿毒症症候群の原因となる。よく加熱した食品を摂取することで予防できる。

赤痢菌(Shigella  species):

 細菌性赤痢の原因菌で、A群(志賀菌)、B群(フレクスナー菌)、C群(ボイド菌)、D群(ソンネ菌)に分類されている。志賀潔が1987年に東京で発生した赤痢の流行の際、A群赤痢菌を患者から分離した。経口的に侵入した菌が、回腸末端や結腸の粘膜上皮へ侵入することによって浮腫、膿瘍、出血を起こすため、膿粘血便になる。志賀菌は神経毒である志賀毒素を産生する。腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素とともに志賀毒素群毒素として一括して呼ばれている。通性嫌気性グラム陰性桿菌で、鞭毛を欠き、莢膜を作らない。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 赤痢菌は学名ではShigella(シゲラ)といい、医学的に重要な病原細菌に日本人の名前がついている稀有な例です。現在では、分子生物学的には大腸菌と同一の生き物だとされています。潜伏期間は1から5日で、発熱、腹痛、下痢が出現します。志賀菌の一部は志賀毒素を産生し、細胞障害を引きおこしますが、これは腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素1と同じもので、同様に溶血性尿毒症症候群の原因になります。そのため、赤痢菌の中でも志賀菌によるものは症状が重くなる傾向にあります。志賀菌以外では重症になることは少なく、1週間程度の経過で改善します。患者のほとんどは10歳未満で、2から4歳がもっとも発症しやすいと言われています。少量の菌数でも発症するため感染が拡大しやすいですが、現在は症状の重い志賀菌の検出は少なくなり、強制隔離は一般的には必要ありません。75℃、1分程度の加熱で死滅しますが、他の食中毒菌と同様に食品の二次汚染には注意が必要です。赤痢菌は時に反応性関節炎(ライター症候群)の原因になることがあります。反応性関節炎については他項に書きます。
 細菌性赤痢は現在ではまれで、ほとんどが旅行者下痢症(海外での感染)です。

 まとめ:赤痢菌は食中毒の原因となる。よく加熱した食品を摂取することで予防できる。

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