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レジオネラ

 1976年米国フィラデルフィアで開催された在郷軍人総会において、参加者から原因不明の重症肺炎患者が続出し、死者を出した事件を契機に発見された感染症。原因菌はLegionella pneumophilaと命名された。マクロファージ内で増殖可能で細胞内寄生菌の1つである。元来、本菌はクーリングタワー水などや自然水中、温泉水中でアメーバや藻類と共生的に生息している。ヒトはこれらからのエアゾールを経気道的に吸い込んで感染する。免疫不全者や高齢者に好発する。臨床病型は上述の肺炎型とやや軽症のポンティアック熱型に型別される。菌はL. pneumophilaのほかL. micdadei、L. bozemaniiなど43種類が知られている。マクロライド系、キノロン系、リファンピシンが効果的である。四類感染症のひとつ。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 レジオネラはグラム陰性桿菌のひとつで、沼や川、湿った土壌中などに普通に存在する菌であり、現在40菌種以上、さらに多数の血清型に分類されています。ヒトに病原性を示すものはその内19菌種あり、もっとも多いのがレジオネラ・ニューモフィラの血清型1です。クーリングタワーには血清型1、温泉や24時間風呂には血清型4、5、6が多いとされています。環境中に存在するレジオネラはふつうアメーバなどの原生動物に寄生して外界から守られているため、浴槽水の通常の塩素濃度では十分に除菌されません。2002年に行われた厚生労働省による入浴施設などの全国一斉点検では、およそ6分の1の施設からレジオネラ属菌が検出されたと報告されています。 レジオネラは20から45℃でよく活動し、それ以下では冬眠状態、60℃以上では死滅します。クーリングタワーや温水が危険なのはレジオネラがよく活動する温度範囲内にあるからです。特に温泉施設での打たせ湯やジャグジーはエアロゾルが発生しやすく、レジオネラ感染のリスクの高い場所だと認識されています。
 レジオネラ属は下記のような症状を引きおこします。
・肺炎
 レジオネラ属による肺炎は市中で発生する肺炎の3から10%程度を占めると考えられています。潜伏期間は2から10日間(ふつう1週間以内)で、高熱、咳などが出現します。低酸素血症が強い、発熱のわりに脈拍が遅い(比較的徐脈)、逆行性健忘、小脳失調、傾眠傾向などの神経症状の率が高い、血液検査で逸脱酵素の上昇が見られるなどといった特徴があります。神経症状や肺以外の臓器の障害はレジオネラ菌体そのもののためではなく、毒素や宿主のサイトカインによるものだと考えられていますが、病態の仕組みについてはよく分かっていません。高齢者や免疫力が充分でない人では命にかかわる重大な疾患です。抗菌薬によって治療します。
・ポンティアック熱
 軽症のレジオネラ感染症で、無治療でも数日で改善します。潜伏期間は1から2日で、突然の発熱、頭痛、筋肉痛、咳などといった非特異的な症状が見られます。集団発生でなければ症状からレジオネラ感染症を疑うことはふつうありませんので、大部分がいわゆる風邪として気過ごされていると考えられます。基礎疾患のある人などで治癒が遅れると、半年から1年程度、健忘症や集中力低下などの神経症状が続くことがあります。

 レジオネラは子どもでは主要な病気の原因ではありません(米国では子どもの患者はレジオネラ患者のうち2%未満)が、全年齢で発生する可能性はあります。

 まとめ:レジオネラは環境中にひろく存在する常在菌だが、クーリングタワーや入浴施設などで増殖、集団感染することがある。施設での衛生対策によって予防できる。

コクシエラ(Coxiella):

 グラム陰性桿菌に類似した細胞壁をもつ。ダニにより伝達される病原体で、塵埃、家畜由来のエアロゾルなどの吸入で感染するQ熱を発症させるコクシエラ・バーネッティ一種のみが知られている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 コクシエラ・バーネッティはグラム陰性桿菌の偏性細胞内寄生菌で、当初はウイルスだと考えられていました。後に細菌であることが分かり、節足動物に媒介されるなどの性質からリケッチアとされましたが、さらに遺伝子の解析によってレジオネラに近いことが分かり、現在ではレジオネラ目に分類されています。1937年にオーストラリアの食肉処理場で初めて報告され、原因不明の熱病(query fever)とされたため、現在でもQ熱と呼ばれています。世界的には決してめずらしいものではありませんが、家畜からの感染が多い海外とは違い、本邦の主要な感染源はネコだと考えられています。コクシエラ・バーネッティは芽胞は作りませんが環境に抵抗性の高い形態を取ることができ、乾燥したダニの糞便中では1年以上、4℃では食品中に数年程度生存できると言われています。
 コクシエラ・バーネッティは下記のような症状を引きおこします。
・Q熱
 コクシエラ・バーネッティに感染しても、半数の人は無症状だと言われています。動物の糞などが乾燥して舞い上がったエアロゾルを吸い込むことで感染しますが、汚染された食品が原因になることもあります。また、流産した動物の胎盤や、動物の敷き物が原因と思われる報告もあります。ヒトからヒトへの感染はまれです。急性型と慢性型があり、急性型の潜伏期間は2から4週間、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛などの非特異的症状が出現します。多くは2週間以内に自然と治癒しますが、適切な治療がなければ発熱が長引くこともあります。発症者の半数程度に肺炎が認められます。肺炎があっても咳や痰などの症状がはっきりしないことがかなりあり、通常、聴診でも呼吸音の異常は聞かれません。回復した人は、生涯に渡る免疫が獲得されます。慢性型は心内膜炎が多く、心臓に病気のある人や免疫力の弱っている人がリスクだと考えられています。他に血管炎、肝炎になることもあります。慢性型は最初の感染から1年後に発症することもあれば、もっと間隔が開くこともあります。頻度は少ないものの慢性型は予後が悪く、命を落とすこともまれではありません。抗菌薬によって治療します。Q熱と慢性疲労症候群の関連を指摘する報告がありますが、定まった見解はありません。

 コクシエラは感染力が強い(たった1個を吸い込んだだけで発症する可能性がある)上にイヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、クマ、シカ、サル、キツネ、ハト、カラスなどあらゆる動物や鳥類が保菌者となります。診断が容易ではなく、本邦での発生状況はよく分かっていませんが、市中の異型肺炎(βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎)のそれなりの割合を占めているとする報告もあります。
 オーストラリアでは獣医、屠畜業者など感染リスクの高い人に対してワクチンが使われますが、本邦では認可されていません。

 まとめ:コクシエラ・バーネッティはQ熱の原因となる。動物に関連した衛生対策を行うことで予防できる。

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