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感染症 - メニューへ戻る

リケッチア

 生きた動物細胞内でのみ増殖する通常の細菌より小型の細菌。グラム陰性で多形成を示し、ペプチドグリカンを骨格とする細胞壁をもつ。本菌の発見者である米国の微生物学者リケッツに因んで命名された。感染伝播に必要な媒介動物は、ノミ、シラミ、ダニなどの節足動物でベクターと呼ばれる。いくつかの属が含まれる。主な属の主な菌について、発症する病名と媒介動物を例示すると、リケッチア属のR. prowazekii(発疹チフス:コロモジラミ)、R. typhi(発疹熱:ネズミノミ)、R. rickettsii(ロッキー山紅斑熱:マダニ)、R. japonica(日本紅斑熱:マダニ)、オリエンチア属のOrientia tsutsugamushi(ツツガムシ病:ツツガムシ)、コクシエラ属のCoxiella brunetii(Q熱:マダニ)、エーリキア属のEhrlichia sennetsu(腺熱:不明)、バルトネラ属のBartonella bacilliformis(オロヤ熱:スナバエ)、B. henselae(ネコひっかき病、細菌性血管腫:不明)、B. quintana(塹壕熱:シラミ)などがある。治療には主にテトラサイクリン系の抗生物質が使われる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 リケッチア目は更にリケッチア科、アナプラズマ科に分類されます。細胞外では生存できない偏性細胞内寄生菌で、ダニなどの節足動物を介して一部がヒトに病原性を示します。近年、分類上の再編成が大きく、コクシエラ属はレジオネラ目コクシエラ科に分類されましたので本項でははぶきます。バルトネラ属はリゾビア目バルトネラ科にうつされましたが、便宜上本項で扱います。
DNA解析からミトコンドリアはリケッチアの近縁種から進化したという説が近年提唱されています。
 リケッチア科(およびアナプラズマ科、リゾビア目バルトネラ科)の細菌は下記のような症状を引きおこします。
・日本紅斑熱
 日本紅斑熱はリケッチア・ジャポニカに感染することによって生じ、媒介動物はキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニなどだと考えられています。山地などマダニの生息地域で野外作業を行っている時に吸血され、感染するのが一般的です。発生はマダニの吸血時期である夏季に多いですが、通年で見られます。潜伏期間は2から8日で、発熱、発疹、マダニの刺し口を三主徴とします。発熱は39℃以上の高熱がしばしば認められ、発熱と同時に発疹が出現します。発疹はツツガムシ病に比べて四肢に多く、手足や顔面から体へ向かって拡大していく傾向があります。重症になると発疹部は皮下出血を伴い、長く色素沈着を残します。すべてのマダニがリケッチアを持っているわけではありませんが、森林などに立ち入る際には袖の長い服を着るなど露出部を減らし、マダニの吸血を避けることが大事です。ロッキー山紅斑熱など紅斑熱群リケッチアは世界中に分布しており、世界的には決してまれな病気ではありません。プロテウス属の細菌との交差抗原性を利用したワイル・フェリックス反応ではOX-19株、OX-2株が陽性です。抗菌薬によって治療します。
 他にシラミが媒介するリケッチア・ロワゼキイによる発疹チフスや、主にネズミノミが媒介するリケッチア・チフィによる発疹熱があります。発疹チフスは本邦では1957年以降発生の報告はありませんが、発疹熱は本邦でも散発的に報告があります。発疹熱の潜伏期間は約1から2週間で、発熱、頭痛、発疹などの症状が出ます。発熱は10日程度続くことがあります。ワイル・フェリックス反応では日本紅斑熱と区別ができません。抗菌薬によって治療します。
・ツツガムシ病
 ツツガムシ病は、リケッチア科のオリエンチア・ツツガムシに感染することで発症します。ツツガムシ病には、春から夏にかけて発生が多いアカツツガムシによるものと、秋から春にかけて発生の多いタテツツガムシ、フトゲツツガムシによるものがあります。前者は近年はほとんど見られなくなったため古典型ツツガムシ病、後者はそれにかわって出現したため新型ツツガムシ病と呼ばれています。流行時期の違いはツツガムシが孵化する時期の違いによります。ツツガムシはダニ目ツツガムシ科に属するダニで、一世代に一度だけ、幼虫期に哺乳動物に吸着し、組織液を吸います。保菌しているダニに吸着された場合、リケッチア・ツツガムシに感染することがあります。潜伏期間は約1から2週間で、高熱をともなって発症し、数日遅れて体を中心に発疹が出現します。適切な治療がなければ時に多臓器不全など重症化することがあります。日本紅斑熱と同様に発熱、発疹、ダニの刺し口が三主徴とされています。ツツガムシ病では日本紅斑熱とは違い、手のひらや足の裏に紅斑が認められることはまれです。すべてのツツガムシがリケッチアを持っているわけではありませんが、森林などに立ち入る際には袖の長い服を着るなど露出部を減らし、ツツガムシの吸血を避けることが大事です。ツツガムシ病はアジア各地、オーストラリア北部にも見られます。プロテウス属の細菌との交差抗原性を利用したワイル・フェリックス反応ではOXK株が陽性です。抗菌薬によって治療します(ニューキノロン系は無効)。
・腺熱、ヒト単球エーリキア症、ヒト顆粒球アナプラズマ症
 リケッチア目アナプラズマ科に属する細菌の報告は、1956年の日本での報告がもっとも古く、腺熱と呼ばれました。腺熱の原因菌は現在はアナプラズマ科に分類され、ネオリケッチア・センネツと呼ばれていますが、それ以降発生の報告はありません。以後、欧米でも認知されるようになり、欧米では広く患者が発生していることが知られるようになりました。家畜のエーリキア症はまれな病気ではなく、獣医学分野では重要な疾患で、マダニがアナプラズマ科の細菌を媒介することによってヒトにも病気を引きおこします。ヒト単球エーリキア症はマダニに刺されてから5から10日の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、筋肉痛、吐き気、下痢といった非特異的な症状が出現します。子どもでは発疹が出ることが多いとされています。エーリキア・シャフェンシスが原因となりますが、本邦での存在は確認されていません。ヒト顆粒球アナプラズマ症は、マダニが媒介するアナプラズマ・ファゴサイトフィルムに感染することによって生じます。潜伏期間は1から2週間で、発熱、頭痛、筋肉痛、吐き気、下痢といった症状が出現します。調査によってアナプラズマ・ファゴサイトフィルムを保菌しているマダニは本邦でも各地に生息していることが分かっています。すべてのマダニがアナプラズマ科の細菌を保菌しているわけではありませんが、森林などに立ち入る際には袖の長い服を着るなど露出部を減らし、マダニの吸血を避けることが大事です。抗菌薬によって治療します。
・ネコひっかき病
 ネコひっかき病はバルトネラ・ヘンセレが原因で生じます。バルトネラ・ヘンセレを保菌しているネコは一般には健康で、何も症状を示すことはありません。ネコノミを介して他のネコへ伝播されるため、他のネコとの接触が多い野良猫に多く、また、3歳以下の仔猫に多いとされています。患者のほとんどはネコとの接触歴がありますが、イヌからの感染、ネコノミに吸血されたことが原因と思われる報告もあります。潜伏期間はふつう数日から10日程度(もっと長いこともある)で、典型的にはネコにひっかかれた部分に虫刺されに似た腫れを生じ、その1から2週間後に所属リンパ節(手の傷なら脇の下、足の傷なら鼠径部のリンパ節)が腫大します。傷の場所に関係なく首のリンパ節が腫れることもあります。リンパ節の腫れは鶏卵大以上に大きくなることもあり、数週間から数ヶ月続きます。リンパ節の腫れに発熱や倦怠感といった感冒症状を伴うことがあります。通常は自然と治癒しますが、症状のある期間を短縮できる可能性があるため、ネコひっかき病と診断された場合、抗菌薬を処方されることがあります。まれにパリノー眼腺症候群(片側の結膜炎に同側の耳前リンパ節、顎下リンパ節の腫れを伴う病態)や、数週間後に脳炎を合併することがあります。ネコひっかき病による脳炎は比較的軽症だと考えられています。脳炎については他項に書きます。他に、免疫不全者などでは細菌性血管腫などの合併症が知られています。ネコを飼っているご家庭では、ネコのノミ対策、定期的な爪切り、ネコによるひっかき傷をよく洗浄するなどの一般的な衛生対策をこころがけましょう。
・塹壕熱
 塹壕熱はシラミが媒介するバルトネラ・クインターナに感染することによって生じます。バルトネラ・クインターナの自然宿主はヒトのみであり、感染したシラミの糞が皮膚の傷や結膜にこすりつけられて他のヒトに伝播されます。潜伏期間は2から4週間で、発熱、頭痛、脱力、強い背中の痛み、足の痛みが典型的な症状です。発熱はしばしば40℃の高熱で5日程度持続し、半数の人で5日程度の間隔をあけて数回繰り返すことがあります。発疹が出ることもあります。塹壕熱の名称は第一次世界大戦、第二次世界大戦時に塹壕内いた兵士たちの間で蔓延したことで名付けられましたが、本邦でも路上生活者に寄生するコロモジラミからバルトネラ・クインターナの存在が確認されており、現在でも塹壕熱が発生している可能性が指摘されています。抗菌薬によって治療します。

 まとめ:リケッチア(およびアナプラズマ、バルトネラ)は節足動物などを介してヒトに病気を起こすことがある。マダニ、ノミ、シラミなどの対策を日頃からこころがけることで予防できる。

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