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マイコプラズマ

 人工培地に発育可能な自己増殖性微生物の中で最小の微生物である。一般の細菌とは異なり細胞壁を欠き3層の限界膜に包まれており、そのため形態は多様であり、細菌濾過膜を通過する。従って発見当初は濾過性病原体と呼ばれた。しかし、ウイルスとは異なることから、その後PPLO(ウシ肺疫様微生物)という名称も使われた。自然界に広く存在し、ヒト、動物、植物に寄生する。ヒトから分離されるマイコプラズマは現在、マイコプラズマ属やウレアプラズマ属など16種類が報告されているが、病原性が確認されているのは原発性異型肺炎(マイコプラズマ肺炎)の原因となるマイコプラズマ・ニューモニアエである。マイコプラズマ・ゲニタリウムは男性尿道炎や女性頸管炎との関連が示唆されている。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 マイコプラズマ・ニューモニエ(肺炎マイコプラズマ)は、子どもの呼吸器感染症の重要な原因のひとつです。1歳までに3割以上、5歳までに5割以上、成人までにほぼ100%の人が感染します。"肺炎"とついていますがすべての感染者に肺炎を認めるわけではなく、最大で100人中10人程度、学童期に多く、他の年齢ではさらに肺炎の頻度は低下します。潜伏期間は2から3週間で、発熱、頭痛、のどの痛み、倦怠感、咳などが出現します。ウイルス性感冒とは異なり鼻汁はあまり目立たないのが特徴ですが、低年齢では認めることもあります。咳は発熱から数日後に始まり、時に1ヶ月程度続くこともあります。発熱ははっきりしないこともあります。マイコプラズマ・ニューモニエによる肺炎の多くは重症度が軽く、walking pneumonia(歩き回れる肺炎)とも呼ばれます。年長児で症状が軽ければ外来での治療も可能です。マイコプラズマ・ニューモニエそのものの細胞障害性は低く、症状の多くは宿主の免疫応答の結果だと考えられています。そのため、咳といった呼吸器症状に加え、宿主の免疫応答の関与が考えられる様々な合併症をおこすことがあります。マイコプラズマ・ニューモニエそのものによる障害としては中耳炎の合併が多く、宿主の免疫応答による間接障害としては、発疹、蕁麻疹、脳炎、小脳失調、ギラン・バレー症候群、オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群(眼球の不規則な運動、筋肉の不随意の収縮、ふらつきといった小脳失調を伴う)などの神経症状、血小板減少性紫斑病、血球貪食症候群、川崎病のようなサイトカインの誘導による症状、伝染性単核球症、また、腎炎の合併も知られています。近年では過剰なサイトカイン産生のために適切な抗菌薬の投与によっても解熱しない症例に対してステロイド治療が行われるようになり、効果があることが報告されています。川崎病については他項に書きます。マイコプラズマ・ニューモニエ感染症は軽症では抗菌薬は不要ですが、咳がひどい、あるいは咳が長引いている症例、肺炎を認める症例などには抗菌薬を処方させて頂きます。従来はクラリスなどのマクロライド系抗菌薬で充分な効果が得られていましたが、近年では耐性菌の増加から抗生剤の変更が必要となるケースがあります。ワクチンはなく、手洗い、うがいなど一般的な感染対策を行います。

 他に、マイコプラズマ・ゲニタリウムや、マイコプラズマ・ファーメンタンスが非淋菌性尿道炎などの原因になると考えられていますが、小児で問題となることはふつうありません。

 まとめ:肺炎マイコプラズマは子どもの主な風邪の原因のひとつで、時に肺炎になることがある。

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