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ボツリヌス菌

 毒素型食中毒の代表的な細菌。土壌中に分布し、汚染された野菜、ソーセージ、ハム、肉や魚などの缶詰や保存食中の芽胞が嫌気条件下で発芽、増殖し、強力な毒素を産生する。わが国では、東北地方の保存食「いずし」による中毒や、熊本の「からし蓮根」による集団食中毒が有名である。ボツリヌス毒素は易熱性で80℃、20分間の加熱で失活する。免疫学的に7型(A~G)に分けられ、わが国ではE型によるものが多い。本菌は、偏性嫌気性グラム陽性桿菌で、卵型の芽胞を形成し、4~6本の周毛を持つ。ボツリヌス菌の芽胞の抵抗性は強く、100℃、5時間以上、高圧蒸気滅菌(121℃15分)で初めて死滅する。予防と治療には抗毒素血清療法が行われる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 ボツリヌス菌は、産生する毒素の違いからAからG型の7種類が知られていますが、そのうちヒトに病気を起こすものはA、B、C、E、F型で、A型がもっとも毒性が強いと考えられています。ボツリヌス毒素は自然界で最強の毒素で、A型毒素は1gで100万人分の致死量に相当すると言われます。東北では土壌中にE型菌の検出が多く、熊本の食中毒によって行われた環境調査では周辺の土壌からA型菌が検出されています。
 ボツリヌス菌は下記のような症状を引きおこします。
・食中毒(ボツリヌス症)
 ボツリヌス菌による食中毒は、産生する毒素が強力な神経毒であることから、通常の食中毒よりはるかに重篤です。潜伏期間は4時間から10日間(ふつうは1日半以内)に、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢といった胃腸炎症状で発症、ものが二重に見える、まぶたが下がる、うまくしゃべれない、うまくものが飲み込めないといった症状が出現し、四肢の筋力低下が肩から下へ進行していきます。無治療の場合、3人にひとり以上が呼吸筋麻痺により死亡すると言われています。ボツリヌス抗毒素と人工呼吸によって死亡率を下げられます。ボツリヌス抗毒素はできるだけ早期に投与することが必要で、発症後72時間以降は無効だと考えられています。治療によって多くは数週間から数ヶ月で完全に回復しますが、以後も息切れや疲れやすさが数年間残ることがあります。

 傷からボツリヌス菌が侵入し同様の症状を起こすことがありますが、この場合は胃腸症状が先行せず、潜伏期間は数日から3週間です。
・乳児ボツリヌス症
 ボツリヌス菌の芽胞を1歳未満、特に6か月未満の乳児が摂取することで、腸管内で菌が増殖して発症します。潜伏期間は明確ではありませんが、数日から4週間程度ののち、頑固な便秘で発症、それが数日続き、全身の筋力の低下、哺乳力の減退、声が小さくなるといった症状が出現します。顔は無表情となり、首の筋肉がおかされれば首が座らなくなります。ボツリヌス食中毒と違って死亡率は低いため、呼吸管理、経管栄養などの対症療法が行われ、一般的にはボツリヌス抗毒素は使用されません。しかし、近年では本邦でも死亡報告があったことから、今後見直されるかも知れません。抗菌薬の効果は一定したものはなく、症例によっては細菌の増殖を抑制するために使用を考慮される場合があります。平均入院期間は1ヶ月半です。便秘のために病原体の排泄が長引き、数ヶ月に渡って便から菌が検出されることがあります。ハチミツが原因食品だと断定された事例があったことから、本邦では厚生省から1歳未満の乳児にハチミツを与えないようにという通知が出されています。他にコーンシロップ、黒砂糖、加熱殺菌されていない野菜ジュースなどがリスクだと考えられています。井戸水が原因となったケースもあります。離乳前の乳児は消化管内の微生物叢(定着している常在菌の集合)が未熟で、ボツリヌス菌の感染に対して抵抗力が弱いため生じると考えられています。乳幼児突然死症候群の原因のひとつだという説もあります。
 極めてまれですが、腸管定着性ボツリヌス症といって、1歳以上でも手術など何らかの誘因でボツリヌス菌が消化管に定着してしまい、乳児ボツリヌス症と同様の症状が長期間続くことがあります。

 ボツリヌス菌の芽胞を加熱によって取り除くのは一般家庭では困難ですが、ボツリヌス毒素は80℃、30分、85℃、5分(自家製の缶詰や瓶詰などからの感染が多いアメリカでは、摂食前に100℃、10分の加熱が勧められています)の加熱で失活します。

 まとめ:ボツリヌス菌は食中毒の原因となり、重篤な神経障害を起こすことがある。充分に加熱することで予防できる。乳児にはハチミツを与えない。

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