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ジフテリア菌

 好気性ないし微好気性グラム陽性桿菌。多形性で、染色標本では柵上、松葉状の配列を示す。グラム染色性は弱いが、強くグラム陽性に染まる異染小体がある。主な感染部位は上気道で、飛沫感染により咽頭などに感染した毒素原性の菌は粘膜表面で増殖し、血中に入ることはない。菌が産生した易熱性のジフテリア毒素は周辺の組織の壊死を起こして偽膜(ジフテリア膜)をつくるとともに、毒素が体内に吸収されて全身の中毒症を起こす。罹患後は強い抗毒素免疫が得られる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 ジフテリアはコリネバクテリウム・ジフテリエ(ジフテリア菌)が産生するジフテリア毒素に起因する上気道感染症です。9割の人はかかっても発症しない不顕性感染で終わりますが、不顕性感染者は飛沫によって他者に菌を伝搬、感染源となり、ひとたび発症すると10から20人にひとりが死亡する恐ろしい感染症です。乳幼児ではさらに死亡率が高いと言われています。近年、先進国では予防接種の普及によってめったに見られなくなりました。潜伏期間は1から10日(通常2から5日)程度で、高熱、のどの痛み、ものを飲み込むときの痛みなどで発症します。強い吐き気や頭痛、動悸などを伴うことがあります。典型的には免疫細胞や菌の死骸などによる白から灰色の膜状の構造物(偽膜)がのどに形成され、気道の奥の方へ腫れや偽膜の形成が進むと特徴的な咳の症状が出現します(真性クループ)。偽膜形成が声門や気管、気管支にまでに進展したり、偽膜が剥がれて気道に詰まったりすると呼吸困難となり、死亡する原因になります。顎の下から首にかけて強い浮腫とリンパ節の腫れを伴うことがあり、外観から”牛頸(bull neck)"と呼ばれます。毒素の直接作用によって神経麻痺をきたすことがあり、かかってから3週目にのどの筋肉、5週目には眼、手や足、横隔膜などに麻痺が進行します。毒素は他に心筋炎を起こすことがあり、急性期と、かかってから数週間後にも現れ、不整脈や心不全によって突然死する可能性があります。ジフテリアの疑いがある場合は隔離の上で原則入院加療、さらに必要に応じて集中治療室への入室が検討されます。抗菌薬とジフテリア抗毒素が治療の基本になります。本邦では生後3ヶ月からの四種混合ワクチンによって予防することが義務付けられています。四種混合ワクチンについては他項に書きます。ジフテリア菌は世界中に存在しており、ワクチンの接種率が低下すると再び発生する可能性があります。学校感染症では第一種の感染症に指定されていますので、完全に治癒したと確認されるまで登園・登校が認められません。
 ウシなどの家畜の常在菌である近縁種のコリネバクテリウム・ウルセランスに、ジフテリア毒素をコードするバクテリオ・ファージが溶原化、毒素産生能が獲得され、ヒトにジフテリアに似た症状を引きおこすことが本邦でも確認されています。コリネバクテリウム・ウルセランスのヒトからヒトへの感染報告は今のところありません。

 1948年11月、12月に無毒化の検査が充分に行われなかったジフテリアトキソイドによって、発症数930名、死者85名にのぼる史上もっとも大規模な予防接種事故(京都・島根ジフテリア予防接種禍事件)が起きています。

 まとめ:ジフテリアは命にかかわる重篤な感染症である。ワクチンによって予防できる。

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