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サルモネラ

 サルモネラ属に属する菌は、ヒトに対する病原性のないものから、急性胃腸炎、チフス症を起こすものまで、2000種類以上の血清型に分類されている。ヒトにチフス様疾患(腸チフスとパラチフス)を起こす菌はチフス菌、パラチフス菌Aで、食中毒を起こす菌は、腸炎菌(サルモネラ・エンテリティディス)、ネズミチフス菌(サルモネラ・ティフィムリウム)などがある。偏性嫌気性グラム陰性桿菌で、鞭毛をもつ。ふつう莢膜を欠くが、チフス菌のようにVi抗原(莢膜様抗原)をもつものもある。
(医学書院 医学大辞典 一部省略・改変)

 サルモネラ属は腸内細菌科に属しており、様々な動物の消化管内にふつうに存在している常在菌ですが、健康なヒトの消化管内では非常に数が少ないと考えられています。サルモネラ属はヒトに感染するものだけでも1300程度の血清型があり、真正細菌の中でもっとも分類に混乱が生じているもののひとつと言われています。しかし、臨床的に重要なのは、チフス性サルモネラなのか、非チフス性サルモネラなのかという点です。サルモネラは細胞外でも細胞内でも増殖できる細菌で、細胞への進入はⅢ型分泌機構によって行われます。Ⅲ型分泌機構を持つものには、他に、腸管浸入性大腸菌、赤痢菌、腸炎ビブリオなどがあります。
 サルモネラ属は下記のような症状を引きおこします。
・食中毒
 非チフス性サルモネラ(腸炎菌、ネズミチフス菌)は、数時間から2日程度の潜伏期間ののち、腹痛、嘔気、下痢、発熱といった症状が出現します。下痢には血液が混じることがあります。潜伏期間はもう少し長いこともあります。子どもがかかりやすく、1歳未満ではより症状が重くなる傾向にあります。発熱は1日から数日間、下痢は多いと1日10回以上、徐々に減っていきますが1週間以上続くこともあります。自然治癒傾向が高く、逆に保菌率を高めるという報告があるため、軽症の場合は抗菌薬は原則用いません。血清型分類では、腸炎菌は血清型O9群に、ネズミチフスはO4群に分類されます。感染経路は鶏卵が有名ですが、生肉、肉類の調理中に二次汚染された野菜なども原因となります。鶏卵は、養鶏場でサルモネラ対策を行っていても卵の殻に付着していたり(on egg)、親鶏から直接卵内に感染している(in egg)ことがあります。普通は菌数が少ないために摂取しても問題となりませんが、割った卵を常温で放置するなどすると菌が増殖し、発症する危険性が高まります。
・腸チフス、パラチフス
 腸チフスはチフス菌、パラチフスはパラチフスA菌の感染症です。血清型ではチフス菌はO9群、パラチフス菌はO2群に分類されます。1から2週間程度の潜伏期間ののち倦怠感、腹痛、頭痛、微熱、食欲低下といった感冒症状から始まり(第1病週)、徐々に高熱となり、数日後には40℃程度まで上昇、高熱が続き(第2病週)、更に下痢や便秘、腸出血の出現(第3病週)を経て、解熱、回復に向かいます(第4病週)。高熱のわりに脈拍が速くならない比較的序脈、高熱時にのみ出現して数時間で消えてしまう胸部、腹部のピンク色の発疹(バラ)、脾腫が三徴と言われますが、それがそろうのは半数程度だと考えられています。パラチフスは腸チフスに比べて一般的に軽症です。非チフス性サルモネラとの症状の違いは、チフス菌、パラチフス菌がマクロファージ(白血球の1種)の食菌を回避できる機構を持っており、マクロファージ内でも増殖できるからだと考えられています。感染したマクロファージが血流に乗って全身に広がっていくため、腸チフス、パラチフスのような強い症状を引きおこします。このような食菌回避能力を持つものには、他に、レジオネラやブルセラ菌などが挙げられます。抗菌薬での治療が行われます。現在、腸チフス、パラチフス感染症の大半は旅行者感染症(海外での感染)です。腸チフスにはワクチンがありますが本邦では未承認となっており、海外へ渡航するために接種が必要となった場合には、トラベルクリニックなど旅行者専門の医院への相談をお勧めさせて頂きます。

 いずれも予防のためには食品の加熱が有効で、75℃、1分程度の加熱で死滅します。

 まとめ:サルモネラ菌は食中毒の原因となる。よく加熱した食品を摂取することで予防できる。

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