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クラミジア/クラミドフィラ

 リケッチア属同様、生きた動物細胞の中でのみ増殖する小型の寄生性細菌。原核細胞としては最も小さい環状DNAをもっている。クラミジア属は、抗原性、封入体の性状、DNAホモロジー、宿主域などから性器クラミジア感染症、鼠径リンパ肉芽腫の起炎菌であるクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、オウム病の原因となるオウム病のクラミジア(C. psittaci)、クラミジア・ニューモニエ感染症を起こすクラミジア・ニューモニエ(C. pneumoniae)、ウシ、ヒツジに病原性のあるクラミジア・ペコルム(C. pecorum)に分類される。菌体は基本小体、中間体、網様体の3つの形態を示し、基本小体、網様体は一般細菌同様、細胞質膜と細胞壁をもつが、細胞壁にはグラム陽性菌や陰性菌にあるペプチドグリカンがない。治療にはテトラサイクリン系、マクロライド系の抗生物質が主に使われる。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 クラミジア科に属する細菌はグラム陰性の偏性細胞内寄生菌で、現在は分類の変更からクラミジア・シッタシとクラミジア・ニューモニエはクラミジア科クラミドフィラ属にうつされ、それぞれクラミドフィラ・シッタシ、クラミドフィラ・ニューモニエと呼ばれています。感染性の基本小体が宿主細胞に吸着、侵入し、増殖型である網様体に変化、分裂増殖後、再び基本小体に戻って細胞外に放出され、別の細胞に感染を繰り返します。
 クラミジア科に属する細菌は下記のような症状を引きおこします。

・肺炎、気管支炎、上気道炎
 トラコーマ・クラミジア(クラミジア・トラコマチス)、クラミドフィラ・シッタシ、クラミドフィラ・ニューモニエはいずれも気道感染を引きおこしますが、症状の強いクラミドフィラ・シッタシは通常、オウム病として別に扱われます。トラコーマ・クラミジアは性感染症の原因でもありますが、クラミジア子宮頸管炎のある母体から分娩時に産道感染し、生後3ヶ月までに結膜炎(クラミジア眼炎、下記を参照)、気道症状が先行する肺炎をきたすことがあります。通常は熱はなく、多呼吸、咳、喘鳴が主な症状となりますが、重症化することは少ないと考えられています。クラミジア・ニューモニエの感染は子ども、特に年長児に多く、潜伏期間は3から4週間、発熱、鼻汁、咽頭痛、嗄声、咳といった感冒症状を示します。自然治癒傾向が強いですが咳は長引くこともあります。肺炎にいたることもありますが、かかっても無症状(不顕性感染)のことがあり、また、軽症では風邪として診療されていることが多いと考えられます。臨床的にはマイコプラズマの症状とよく似ています。症状が強い、長引いている場合には抗菌薬で治療します。
・オウム病
 オウム病の原因はクラミジア・シッタシです。名前から誤解されがちですが、オウム以外の鳥類や、他の動物が感染源となることがあります。本邦ではインコがもっとも多く、その次がハトになります。主に病鳥、もしくは感染動物の排泄物が乾燥して舞い上がったものなどを吸入することで感染します。クラミジア・シッタシを保菌しているトリはふつう無症状で、弱っている時やヒナを育てている時に排菌しやすいと考えられています。潜伏期間は1から2週間で、突然の高熱と咳、筋肉痛、関節痛などで発症します。クラミドフィラ・ニューモニエと同様にマイコプラズマ感染症に似ていますが重症化することがあり、適切な治療がなければ命にかかわることもあります。トリとの接触歴がある場合は鑑別に上がりますが、オウム病に特徴的な症状はこれといってありませんので、軽症の場合はいわゆる風邪として、肺炎も病原体の特定できない異型肺炎(βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎)として加療されているのが実態ではないかと考えられます。哺乳動物では生殖器、胎盤などに感染し、流産した際に病原体が拡散、感染の原因になることがあります。妊婦が感染すると母体の肺炎、早産、流産などを起こす(妊婦オウム病)ことがあります。一方、動物では流産を起こすQ熱やブルセラ症では、ヒトでは直接、流産、早産の原因にはならないとされています。抗菌薬によって治療します。
・性器クラミジア感染症
 性器クラミジア感染症は性交渉によって感染するトラコーマ・クラミジア(クラミジア・トラコマチス)が原因になります。性感染症の中ではもっとも多いとされますが、無症状の場合がかなりあり(女性で約75%、男性で約50%)、発生状況の詳しい実態はよく分かっていません。通常小児科で取り扱う疾患ではありませんが、米国では10歳代の感染がもっとも多く、まったくないとは言い切れません。潜伏期間は1から3週間で、男性の場合は排尿痛や尿道不快感、かゆみなど、女性の場合は膣の分泌物が増える、排尿時の痛みなどの症状が出ることがあります。適切な治療が行われなかった場合、女性では40%が骨盤腹膜炎になります。骨盤腹膜炎は慢性的な子宮、骨盤部の痛み、また、不妊や子宮外妊娠(異所性妊娠)の原因になります。子宮外妊娠は放置すると妊婦が死亡することもある重大な事態です。近年はメトトレキサートによる内科的治療が行われることもありますが、状態によっては着床している組織を胎児ごと切除する必要があり、妊婦や家族にとって非常につらく悲しい経験になります。骨盤腹膜炎は他に淋菌などでも起こることがあります。骨盤炎はさらに肝周囲炎に進展することがあり、フィッツ-ヒュー-カーティス症候群と呼ばれます。フィッツ-ヒュー-カーティス症候群の病態は限局性の腹膜炎で、悪くなったり良くなったりを繰り返す上腹部から右上腹部の痛みです。臨床的には胃の痛みと自覚されることが多く、胃炎と誤って診断されるケースもあります。痛みは強く、睡眠がさまたげられることもあります。性器クラミジア感染症、骨盤腹膜炎、またはフィッツ-ヒュー-カーティス症候群が疑われる場合は産婦人科の受診を勧めさせて頂きます。
・クラミジア眼炎
 性器クラミジア感染症に罹患している母体から分娩時に産道感染し、生後数日から2週間に間に生じます。軽度の結膜炎から多量の分泌物と重度の眼瞼浮腫が見られるような状態まで様々です。クラミジア眼炎を発症した新生児は、半数以上にクラミジア・トラコマチスが上気道にも存在しているため、抗菌薬の全身投与が行われます。。これに続いて上記のように新生児肺炎を合併することがあります。
 他に、きわめてまれですが、ネコの感染症の原因となるクラミドフィラ・フェリスがヒトに感染して結膜炎などをおこすことが知られています。

 まとめ:クラミジア(クラミドフィラ)は風邪や肺炎の原因となる。

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