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エルシニア

 グラム陰性通性嫌気性桿菌である腸内細菌科の属の1つ。ヒトの病原体となる重要なものは、ペスト菌、エンテロコリチカ菌、偽結核菌である。腸炎起炎菌であるエンテロコリチカ菌は、30℃以下でのみ運動性を示す小桿菌で、ヒトに病原性をもつのはO3、O5、O8、O9に限られる。下痢症から検出されるこの菌は95%はO3である。偽結核菌はエンテロコリチカ菌に似ており、齧歯類に結核様病変を発症させ、稀にヒトにも感染する。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 エルシニア属には現在11種類が知られており、ヒトに病原性を示す3菌種はそれぞれことなった臨床症状を示します。冷蔵室内の温度である4℃でもゆっくり発育できます。エンテロコリチカ菌と偽結核菌は野生動物の消化管にふつう存在しており、特にブタ、イヌ、ネコ、ネズミの糞便がヒトにとって重要な感染源だと考えられています。それらから二次汚染された野菜が原因と思われる報告もあります。
 エルシニア属は下記のような症状を引きおこします。
・食中毒、胃腸炎
 エンテロコリチカ菌は半日から数日、偽結核菌は数日から3週間程度の潜伏期間ののち、発熱、腹痛、嘔吐といった胃腸炎症状が出現します。乳幼児では下痢が主な症状ですが、年齢が上がるにつれて回腸末端炎、腸管膜リンパ節炎などの頻度が上がり、強い右下腹部痛から虫垂炎との区別が難しいことがあります。また、発疹が見られることもあります。軽症の場合は対症療法で経過観察を行いますが、治癒に1週間以上かかることがあります。偽結核菌では腸管感染にもかかわらず、腹部症状に加えて咽頭炎、頭痛などが見られ、また、頻度は低い(10人にひとり程度)ですが時に結膜充血、口唇の発赤、イチゴ舌、四肢末端の浮腫・落屑、皮疹といった川崎病様の症状を引きおこすことがあります。これは、偽結核菌が産生するスーパー抗原によるものと考えられています。川崎病の診断基準を満たした場合は臨床的に区別は困難で、通常、川崎病として治療が行われます。また、1か月以内に反応性関節炎(ライター症候群)を合併することがあります。川崎病、反応性関節炎については他項に書きます。
・ペスト
 記録に残っている世界最初のペストの流行は6世紀頃にあり、世界人口の約半数が命を落としたと推察されています。14世紀のヨーロッパの流行では人口の3割が失われました。有効な抗菌薬が存在する現在でも、厳重に管理されるべき感染症のひとつです。本邦では1930年以降患者の報告はありません。ペスト菌はノミ(特にケオプスネズミノミ、日本には生息していない)によって齧歯類から媒介され、ペスト菌に感染している動物をノミが吸血、そのノミに刺された人が感染します。ペスト菌はヒト、齧歯類以外にも、サル、ウサギ、ネコなどにも感染します。潜伏期間は2日から1週間程度で、全身倦怠感、高熱によって発症します。ペストで大多数を占めるのが腺ペストと呼ばれる病型で、リンパ腺から感染が広がり、全身のリンパ節が腫大します。ペスト菌の産生する内毒素(ペスト毒素)による出血傾向が出現、出血斑が黒く変色して(黒死病)数日で死亡します。血液中に菌体が拡散した場合は敗血症ペストと呼ばれる状態となり、腺ペストよりも死亡する頻度が高くなります。肺に感染すると更に急激な経過をたどる肺ペストと呼ばれる病態になり、適切な治療が行われなければ2日程度でほぼ全例が死亡します。肺ペストは感染動物の飛沫を吸い込んだり、バイオテロなどで空中に噴霧された菌を吸い込むと発症します。空気中でのペスト菌の生存時間は1時間程度だと考えられています。
 ペストは学校感染症の第一種に指定されており、完全に治癒するまで通園・登校が認められません。

 エルシニア属の細菌は75℃、1分程度の加熱で死滅します。

 まとめ:エルシニア属は食中毒の原因となりえる。食品を加熱することによって予防できる。

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