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ウェルシュ菌

 発見者ウェルチにちなんでウェルシュ菌と呼ぶ。土中とヒトおよび動物の腸管内に存在する。偏性嫌気性グラム陽性桿菌。楕円形の芽胞を形成し、鞭毛をもたない。本菌による代表的疾患はガス壊疽と食中毒である。ガス壊疽は、土中にある本菌芽胞の創傷への汚染によるもので、菌体外毒素のα毒素(レチシナーゼC)によって起こる。食中毒は、本菌が腸管内で産生するエンテロトキシンによる。栄養型の菌の消毒薬抵抗性は一般の細菌と同様だが、芽胞は100℃、1時間の加熱でも死なない。
(医学書院 医学大辞典 一部省略)

 ウェルシュ菌はクロストリジウム属に属する嫌気性桿菌です。ウェルシュ菌はヒトや動物の腸管内にふつうに存在する常在菌であり、下水、河川、海、耕地などの土壌にも広く分布しています。産生する毒素の違いによってA、B、C、D、E型の5種類に大別されます。食中毒、ガス壊疽を引きおこすのはいずれもA型菌で、耐熱性の芽胞を形成します。
 ウェルシュ菌はヒトに感染して下記のような症状を引きおこします。
・食中毒
 6から24時間(おおむね10時間程度)の潜伏期間ののち、腹痛、下痢といった胃腸炎の症状が出現します。嘔吐、発熱の頻度は低いです。重症化することは少なく、ふつう数日で治癒します。30℃から40℃でもっとも増殖が活発となり、芽胞は加熱によっても残存するため、加熱した食品は長時間放置せず、すみやかに冷蔵保存することが大切です。こういった特徴からウェルシュ菌食中毒は給食センターや、仕出し弁当、旅館、飲食店といった場所で多く発生し、肉類、魚介類などを使ったカレー、スープ、煮物などが加熱後に適切な温度で保存されなかったことが原因となります。
・ガス壊疽
 ガス壊疽は皮下、筋肉などの軟部組織感染症の中でも、メタンや二酸化炭素を産生しながら菌の感染が拡大することが特徴で、積極的な治療を行っても死亡することがまれではありません。外傷後、傷から菌が侵入すると数時間で痛みの悪化、赤みが増大し、徐々に褐色から黒色へと変化していきます。皮下にガスが貯留するため、患部を押さえた時に雪をにぎりしめたような感触(握雪感)があることがあります。細菌毒により発汗、動悸、強い不安感が出現、急速に全身状態が悪化していきます。衛生状態の良くなった現在ではクロストリジウム属によるガス壊疽はあまり見られなくなりましたが、治療は迅速かつ集中的に行う必要があるため、ガス壊疽が疑われた場合には即座に病院へ搬送させて頂きます。
 免疫力が低下するような基礎疾患(糖尿病や肝硬変、免疫抑制剤の使用など)がある人に、連鎖球菌や大腸菌など他の細菌がガス壊疽を起こすこともあります。

 まとめ:ウェルシュ菌は食中毒の原因となることがある。加熱後すぐに低温保存することで予防できる。ガス壊疽は傷口をよく洗浄する、傷が深く重症である場合は医療機関を受診し、適切な処置を受けることで予防できる。

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